プロローグ第002話 チュートリアルへようこそ
プロローグ第002話 チュートリアルへようこそ
・Side:ツキシマ・レイコ
視界が赤い。
まぶたを通して、日の光が赤い。椅子に座って寝ていたのか、体が硬いな。
仕事中の仮眠を椅子で取ることはよくあったけど、そういう寝方をしているときにつきものの体の痛みはないことに、不自然さを感じる。すこぶる快適だ。
目を開けようとしたが、陽射しが目に入ってまぶしい。どっか日向のベンチで昼寝でもしてしまったのか? あれ?
手を目の上にかざして、日を遮り、うっすらと目を開けていく。光になれてきて、前が見えるようになってきた。
眼前で見下ろすは、広大な森林地帯。幅の広い谷なのか、その向こうには、雪を携えた岩山も見える。信州?アルプス?
しかし見える範囲には、ここが日本なら何かしらはあるだろう人工物の類いは、一切ない。自分が今いるところも、岩山の中腹といった感じだ。
どっかに道路とか高圧電線くらい見えているのが当たり前でしょ?と思って、景色を見渡すが。
ここで、自分が入院していたことを思い出した。
癌で…最後は眠らせて貰って…母さん…赤井さん…
あれ?
ここはあの世?
気温からすると春?山なら夏なのか?
空気は澄んでいる。雲もまばらで、空は好天。目の前には壮大な自然の風景。
これが観光や登山なら、さぞ素晴らしい気分なのだが。
死んでここに飛ばされて一人、これからどうすればいいんだろう?という不安がよぎった。あの世で楽園に飛ばされて森林サバイバルしなくちゃなんて、あまり面白くないぞ。
椅子から立ち上がる。癌の転移で麻痺していたはずの手足が自由に動く。本当に死後の世界?
と。かざしていた自分の手が、いつもより小さいことに気がついた。立った視点も、地面までの高さが心持ち低い気がする。
下を見る。…無い? 元々そんなにでかかったわけじゃないけど、下を見ればそれなりにあるはずの胸がない。
両手でぺたぺたする。まったくないっ。なんじゃこりゃ? 何が起こった?
半場パニックになりながら、キョロキョロと周りを見渡すと。視界の隅、私の後ろに何か赤いものがあることに気がつく。凸凹の赤い石。 自然界には不自然なほどの赤い石。最初に連想したのは、朱色に塗った狛犬の像を飾っているお寺?そもそも真っ赤な狛犬って?
私が後ろをふり向くと、そこに立っていたモノと目が合った。
「チュートリアルへようこそ」
上から声がした。見上げると、そこには、眼鏡をしたドラゴンがニタっと笑っていた。
龍ではなくドラゴン。まさに西洋のドラゴン。
恐竜…というより、二足歩行している鰐か。角は六本。頭までの高さは三メートルくらい。全長だと六メートルくらい?
背中には、翼を畳んでいるのが見える。
ここは地獄か? 地獄の入り口から天国の風景を見せつけられているのか? これは地獄の獄卒か?
完璧な善人として生きてきたと言い張るつもりはないけど。私、そんなに悪いことをした? むしろ三途の川を先に渡りたい。
赤いドラゴンは眼鏡をかけている。耳にかけているのではなく、顔にくっついている感じなのだが。 あれ?
頭から血が下がる感覚。死んでいるのに血が下がるのか? パニックで気が遠くなる…
「玲子君、顔を見ていきなり失神とは、ちょっと失礼だぞ」
慌てるように私を支えてくれたドラゴンが、聞き覚えのある声で不貞腐れていた。
・Side:アカイ・タカフミ
モニタリングは正常。意識野は正常にシミュレーションされている。処理能力のリソース消費も想定内。今度も無事"再生"できたようだ。
久しぶりに君と会話できるのはうれしいよ、玲子くん。前に話してから結構経っているからね。
目の前の景色に感動しているね。いいでしょう?、僕の自信作だよ。
彼女はしばらくキョロキョロしていたけど。幼い頃を推測して作った体で、こちらを見上げて驚いている。
あ…子供に真剣に怯えられると、ちょっと来る物があるな。罪悪感が湧いてくる。このパターンは始めてだ。
おいおい、失神しなくても良いだろ
しかたないな。ベースに運び込むか。すぐにでも目を覚ますだろう。
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プロローグ終了です。
ただ、アカイさんのチュートリアルは、10話ほど続く予定です。
…まぁ設定解説ですね。
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