第47話 達人がご来店
祭りは三日目に突入し、名物のミルク缶運びレースも行われた。
これはグランサムの八地区対抗戦で、12リットルは入る大きな缶を肩に担ぎ、町で駅伝をするのだ。
いちばんの難所は郊外にある丘の上から駆け降りる区間である。
転んでミルクをこぼすと丘の上からやり直しになるのだが、出場者のほとんどが足を取られて転び、ミルクと土まみれになっていた。
給食の時間にこぼれた牛乳を拭いたぞうきんの末路に思いを馳せる。
明日になればみんなの服はどんな臭いになっているのだろう……。
ケンプ広場はレースのゴール地点で人がごった返していた。
すでに勝敗は決まっていて今は表彰式が行われている。
みんなが表彰式を見ているので店は暇だ。
ホッと一息ついていると大きな影が俺を覆った。
今日は雲一つない晴天だったけど、夕立でも来るのだろうか?
空を見上げると、そこにあったのは雲ではなく二メートル近い
しかも二人の美女を連れている。
おまけに左側の美女は耳が長い。
ひょっとしてエルフか!?
異世界に来てエルフを見るのは初めてのことだ。
かなりきわどい恰好をしている。
服の胸元は大きく開いているし、スカートのスリットも切れ込みが深い。
こいつは目のやり場に困ってしまうな。
「いらっしゃい」
じっと俺を見つめる大男が
大きくて怖そうな人だったけど、笑うと妙な
「店主、こちらでモバイルフォースというものを売っていると聞いたのだが、どこにあるかな?」
「はいはい、モバフォーならここに。残りは三箱だけですが」
今日もよく売れたので、在庫はグフフ、ジャム、ジュジーオングの三体だけだ。
「ほほう。手に取ってみてもいいかな?」
「どうぞ。箱の横に説明書きがありますよ」
大男はグフフの箱を手に取って念入りに読んでいる。
見た目は俺より年上のようだけど、まるで少年のような真剣さだ。
たっぷり十分はかけて比較してから、ようやく買う商品を決めたようだ。
「やはりこのグフフをもらうとしよう。いちばん相性が良さそうだ」
「グフフですね。ご一緒に武器と防具もいかがですか?」
俺はポテトでも勧めるようにサナガさんの武器も紹介する。
ほとんどの人はこれも一緒に買っていくのだ。
「そうだなあ、クレスはどれがいいと思う?」
「私はやはり槍がいいと思います。うふふ……」
クレスと呼ばれたエルフは腕で胸を抱きながら妖艶にアドバイスしている。
その姿はフェロモンの特売会だ。
「ラナは?」
「変わり種で鞭などいかがですか? 箱の絵にもありますので」
こちらの女性はいかにも生真面目といった感じだな。
箱には鞭を装備したグフフが描かれているのだ。
「ふーむ……」
大男は箱から部品を取り出し店の前でグフフを組み立て始めた。
モバイルフォースの組み立ては超簡単なので小さな子供がやったとしても五分とかからない。
男の指は太くてごつかったが器用に動き、すぐにグフフは完成した。
「武器を持たせてみてもいいかな?」
大男は実際に装備して決めたいようだ。
体つきに似合わす繊細な心の持ち主なのかもしれない。
「いいですよ。でも、ぶつけて壊さないようにお願いしますよ」
「心得た」
男はグフフを額につけてマジックリンクを張った。
そして初めてとは思えないほどスムーズに機体を動かしていく。
これではまるでミシェルの再来じゃないか……。
ここまで器用に動かす人は他にいなかった。
「おお、これはいいな! 実におもしろい」
グフフが飛んだり跳ねたり、ファイティングポーズをとったり、その動きに一切淀みはない。
おそらく目の前の男も達人と呼ばれる種類の人間なのだろう。
様々な武器を試した後、男は人気のない長剣を選んだ。
青龍刀のようにやや湾曲している大振りの剣だ。
刃の全体が艶消しの黒で、飾り彫りは赤く着色されている。
「気に入った、こいつをもらおう」
「防具はどうしますか? こちらの盾が人気ですが」
「盾は要らんよ。私は両手で剣を持つからな」
なるほど、たぶんその方が剣の威力は上がる……。
代金はラナと呼ばれた真面目そうな人が払ってくれた。
やけに俺の顔を見つめてくるけど、気になることでもあるのか?
「ところで店主、こちらでモバイルフォースを買うと、都のチャンピオンが指導してくれると聞いた。一手お手合わせしたいのだが、よいかな?」
建物の壁にもたれて座っていたミシェルを見るとすでに立ち上がって腕のストレッチをしている。
ひょっとしたらこうなることがわかっていたのかもしれない。
「ミネルバ、いいか?」
「ああ、問題ない」
ミシェルは自分のキャンに剣と盾を装備させた。
なんだか気合が入っているな。
「では、こちらへどうぞ」
男はうなずいて闘技場へグフフを置く。
その手には購入したばかりの大剣が握られていた。
モバイルフォースの戦いのはずなのに騎士同士の決闘みたいな緊張感が高まっている。
気が付くと閉会式そっちのけで、こちらの試合に注目するギャラリーがいっぱいだった。
「正式の試合じゃないから名乗りはいらないな」
男はごく気軽な感じで闘いに臨んでいる。
「いつでも参られよ」
ミシェルは闘志をむき出しにしていた。
戦いに熱くなるタイプなのだ。
開始の合図もないままに、二体のモバイルフォースは示し合わせたように踏み込んでいた。
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