第23話 ノームのお礼


 駄菓子のヤハギに現れた小人は大地の妖精ノームであると名乗った。


「ご店主、こちらのソファーを売っていただきたいのだが、おいくらだろうか?」


 ノームの長老は俺のソファーがよほど気に入ったみたいで、真剣な顔つきで尋ねてきた。

だけどこれは売り物ではない。


「じつはこれ、ガチャポンの景品でして」

「ガチャポン?」

「これのことです」


 俺はノームたちにガチャポンの説明をした。


「つまり、たった300リムでこちらの家具を手に入れられるわけですな!?」


 ノームたちは興奮しきっている。


「そうです。そのかわり何が出るかはわかりませんよ」

「ううむ、これはすごい店を発見してしまったぞい。イッチッチ、スクラッチッチ、明日は一族郎党を引き連れてこなくてはなるまい」

「で、ございますな、長老!」

「1個300リムなら買い占めることだってできますね!」


 買い占めるって、このガチャポンは最大50個入るんだぞ。

在庫は49個だから14700リムの売り上げになるじゃないか! 


「明日もこの場所で店を?」

「はい、やっていますのでぜひお越しを」

「それでは明日の朝にまた参りましょう!」


 長老が手にした杖で床を突くと、ノームたちの体は大地に飲みこまれて消えてしまった。


「ノームが現れるとは珍しい。よほどユウスケのソファーが気に入ったのだろう」


 ミネルバが教えてくれた。


「ノームは人前に姿を現さないものなの?」

「ダンジョンに潜る冒険者でも見たものは少ないだろう。私も数回見かけたことがあるだけだ」


 だったら俺は幸運なのかもしれないな。


「ところで、ノームってお金を持っているのかな?」

「ノームは資産家だという話だぞ」

「でも、あんなに小さかったらお100リム銅貨を持ち上げるなんて不可能じゃない?」


 このガチャポンを一回やるには100リム銅貨が三枚必要だ。

100リム銅貨は10リム銅貨よりずっと大きくて重い。


「恐らく大丈夫だ。ノームは土魔法を使いこなす偉大な魔法使いでもある。コインくらいなら持ち上げられるだろう」


 ミネルバはそう教えてくれたが、はたしてそれは事実であった。


 翌日、開店と同時に現れたノームはなんと1万リム銀貨を二枚も持ってきたのだ。

一族郎党引き連れてとか言っていたけど、本当に100人近くはいそうだ。

がやがやと高い声がダンジョンの壁に響いている。


「ご店主、これを両替してくだされ。それから我らがガチャポンをまわすのは難しい。お手数ですが代わりに回してはもらえないであろうか?」

「それくらいお安い御用ですよ」


 俺は今日も遊びに来ているミネルバに声をかけた。


「悪いけど手伝ってくれないか?」

「……私が?」

「ああ、臨時の店員さんだ」

「一緒にお店……。わかった」


 ミネルバはコクリと頷き、両替した小銭で黙々とガチャポンをまわし始めた。

俺はミネルバが出したカプセルを受け取り、クルッとひねって中身を取り出す。

新しい家具が床に置かれるたびにノームたちは歓声を上げた。


「ちょっとちょっと、何の騒ぎ?」

「うわぁ、ノームがいっぱいです」


 メルルとミラもやってきた。


「ちょうどよかった。朝の時間だけでいいからアルバイトをしていってくれよ。今、手が離せなくてさ」

「しょうがないなあ」

「お任せください」


 最古参の常連である二人は店の商品を熟知しているのだ。

値段もちゃんと覚えているから任せるのに不安はない。

こうして俺とミネルバは49個のカプセルを開け、ノームたちに家具を渡すことができた。


「おお! シークレットのスペシャル家具はロッキングチェアか! これは儂の部屋へ運ぶとしよう」


 長老はゆらゆらと揺れるロッキングチェアがいたく気に入ったようだ。


「ヤハギ殿、おかげをもっていい買い物ができた。礼を言わせてくだされ」

「いえいえ、こちらこそすべてお買い上げいただき、ありがとうございました」


 まったく売れないと思っていた在庫がすべてはけたのだ。

うれしい臨時収入である。


「しかしよいのかのぉ……。このように素晴らしいものをこんな安値で売っていただいて」

「構いませんよ。これが正規の値段なんですから」

「だがそれでは儂の気がすまない……。そうだ! ヤハギ殿は風呂が好きか?」


 俺は温泉の国である日本出身だ。

当時から風呂好きであったが、それは転移した今もかわらない。

だけど、この世界では風呂は富裕層の家にしかつかない。

当然、俺の定宿であるボッタクーロになどあるはずもない贅沢品なのだ。


「大好きですが、それがどうかしましたか?」

「そうか、風呂は好きか! では秘密の温泉の場所を教えてしんぜよう」

「なんですって!?」

「このダンジョンの地下二階に沸いている秘密の温泉じゃ。古代神殿の跡地にあるのでモンスターも出ない安全地帯じゃぞ」


 そう言って、長老は自慢そうに鼻をうごめかした。


「それはすごくありがたいですよ。自分は温泉が大好きですから」

「ほほほっ、それは重畳ちょうじょう、重畳。これからはヤハギ殿の好きに使うがいい。仲間に教えてやってもかまわんでな」


 長老は温泉の場所を書いた地図を俺に託し、杖を突いて引きあげていった。

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