第17話 10リムゲーム
多少の戦闘を経験してしまったせいか、俺は少しだけ自信をつけていた。
モンスターカードとロケット弾があればダンジョンの奥まで行っても何とかなりそうな気がしているのだ。
その気持ちを助長させているのがメルルである。
「大丈夫だって。行くときは他の冒険者もいるわけじゃない? 帰りは私たちと帰ってくればいいんだから」
メルルの話によると地下二階に下りる階段付近に手ごろな部屋があるそうだ。
そこは冒険者たちが休憩に使う部屋で、魔物の発生も少なく比較的安全らしい。
地下二階までいった冒険者もそこまで戻ってきて休憩するので、昼間の商売でもかなりの売り上げが見込めるとの話だった。
「ユウスケさんがそこまで来てくれたら私も便利なんだよね。疲れたときに10リム玉チョコとかを買えるもん」
「朝のうちに買っておけばいい話だろう?」
「あるとつい食べちゃうから、そのつど買いたいの!」
それはメルルの自制心の問題だ。
だけど、俺としても手っ取り早く稼ぎたいという気はある。
早く鑑札を手に入れて、アパートも借りたい。
ボッタクーロでは心が休まらないのだ。
これで売り上げが伸びるのなら多少のリスクは冒してもいい気になっている。
「ユウスケさんが来てくれればみんな喜びますよ」
けっきょくミラの言葉にほだされて、俺は地下階段の手前まで行ってみることにした。
「おっ、ミネルバ!?」
「おはよう。偶然だな……」
「何をしているの?」
「別に……」
ミネルバは別にと言うが、外は雨が降っている。
にもかかわらずそんなところにいるということは、よほど大切な用事があるのだと思うのだが。
「俺はダンジョンへ行くけど、ミネルバは?」
「私もダンジョンへ行くところだ」
「ふーん……」
本当に偶然通りかかっただけなのか?
俺たちは並んでダンジョンへと歩いた。
◇◆◇
やった……。やった、やった、やったあ!
夜が明ける前から待っていたおかげで、偶然を装ってユウスケの出勤に同伴することに成功したわ。
昨日は手作りのサンドイッチを食べてもらえたし、ユウスケは美味しいと言ってくれた。
万全とは言え、計画が上手くいきすぎて怖いくらい……。
きょうもランチを作ってきたけど、ユウスケは食べてくれるかな?
振り向いてもらうには愛の秘術を使えば簡単なんだけど、それではだめなことはわかっている。
私だって魔法なしでユウスケに愛されたいもん。
でも私が女の子だってことをどうやって知ってもらおう?
魔女ミシェルだとばれないように、普段から認識阻害の範囲魔法をかけているけど、いっそのこと解いてしまおうかしら?
いえいえ、それは早計よね。
偶然を装って体を密着させればワンチャン気づいてくれるかな……。
ヤダヤダ、私ってばいつからこんなに淫らになってしまったの!?
恋は女を変えるって言うけど、それは本当のことかもしれない。
今日はユウスケの護衛としてダンジョンの闇に潜む予定。
ああ、今の私、シ・ア・ワ・セ!
◇
雨が降っていたので速足でダンジョンまでやってきた。
この世界には傘というものは売っていない。
それにしてもミネルバのやつがガシガシ俺にぶつかってきて歩きにくかった。
遊びのつもりか?
仮面のせいで表情が見えないので、イマイチ奴の考えていることがわからない。
迷宮前で待ち合わせていたメルルとミラに合流した。
「おはよう」
「おはようございます……」
ミネルバがいるせいか二人はいつもより緊張していた。
「ミネルバも挨拶しろよ」
「ふん、ユウスケに色目をつかうメスガキどもか……。調子に乗っていると潰すぞ」
「おい、うちの常連さんになんてこと言うんだよ!」
「す、すまん。つい……」
ミネルバは女嫌いなのか?
話下手でコミュ障気味であることは確かだ。
俺が強めに注意するとしゅんとして項垂れてしまった。
「メルルもミラも気にしないでくれ。こいつたまに変なことを口走るんだ。悪気はないんだよ」
「はあ……」
気まずい空気が流れたが、俺たちはダンジョンに入る人の群に加わって目的地を目指した。
途中で何度か冒険者の戦闘を目撃したけど、特に危険なこともなく目的地に到着した。
「これが地下二階へ続く階段か。思っていたより広いんだな」
こちらの階段も幅が7メートルくらいはありそうだ。
「休憩部屋はこっちだよ」
メルルが教えてくれる。
「貴様、ユウスケを休憩部屋に連れ込んで何をするつもりだっ!?」
「駄菓子屋だけど……」
「そうか……ならばいい」
今日のミネルバは普段にもましておかしかった。
案内された部屋は旅館の大宴会場くらいの広さがあった。
そういえば社員旅行ってやつに行ったなあ。
日本はもう遠くなってしまった……。
俺は隅っこの方に移動して店を出す。
「開店、駄菓子のヤハギ」
おお!?
今回は大幅なレベルアップをしたぞ!
現れたのは縁日の屋台みたいな店舗である。
屋根から垂れ下がった幕には『駄菓子のヤハギ』とこちらの文字ででかでかと書かれていて、商品も増えていた。
台の上にはお菓子だけじゃなくてオモチャなんかも置いてある。
この店の商品だから、ただのオモチャではないのだろうけど……。
「なんだ、この箱!?」
メルルが騒いでいると思ったら、店の隅に懐かしのゲーム機が置いてあった。
商品名:ダンジョン攻略ゲーム
説明 :投入した10リム銅貨をばね仕掛けのレバーで弾いてゴールを目指すゲーム。地下七階までいくとゴールで景品が出てくる。景品は
値段:一回10リム(10リム銅貨以外は使えない)
懐かしいな。
レトロゲーム館でみた『新幹線ゲーム』というのにそっくりだ。
同じようなゲーム機に『キャッチボール』とか『カーレース』というのもあったよな。
しかし景品がエリクサーというのはすごすぎないか?
どんな傷も病気も直してしまう薬だぞ。
その分、ダンジョン攻略ゲームは俺が知っている10円ゲームより難しそうだが。
さっそくメルルが10リム銅貨を投入して遊びだした。
「けっこう上手いじゃないか、メルル」
「くじ引きのような運任せより、こっちの方が向いているみたい。やっぱり私は実力の女なのね」
「そこ、気を付けろよ。強く打ちすぎると向こう側で落っこちるぞ」
「みればわかるわよ。ここはこうして……」
だが、メルルは力を抜き過ぎて、銅貨は手前の穴に落ちてしまう。
「うがーっ! 失敗した。チッ、もう一回だ」
「いや、仕事に行けって……」
駄菓子のヤハギに新しい名物が増えた。
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