あなたを映させて

 今朝、ダイニングに通じる廊下を歩いていると、見たことのない姿見が置いてあった。まるで絵画を飾る額縁のように立派なフレームに囲まれて、古そうなのに綺麗な鏡面が光っている。

「こんなところに鏡?」

 この廊下は、お兄様が所有する色んな空間からダイニングに行く場合、必ず通ることになる長い道で、当然ながら、玄関からも少し距離がある。玄関近くにあるならともかく、こんな所に鏡があっても仕方ないと思うのだけど。

「ああ、あの鏡か。気にするな。少しの間、あそこに置いておくだけだ」

 キッチンで料理中のお兄様が、私の疑問にそう答えた。フライパンから美味しそうな匂い。

「でも、なんであんな所に?」

「あの鏡は賑やかな所が好きなんだ。あの廊下なら、俺やお前だけじゃなく、使い魔たちも頻繁に行き来するだろ」

「まあ、それはそうね」

 でも、賑やかな所が好きな鏡って……?

 不思議に思ったけれど、学校に行ったらそんなことはすっかり忘れてしまって、帰宅してから思い出した。通りがかりに鏡を覗いたら、そこに私は映っていなかった。

 代わりにいたのは、コウモリの羽根を生やし、全身黒で統一した、私と同い年くらいの、金髪の女の子だった。目元はサキュバスに似ているし、服装は獏に似ている。髪型はツインテールで、私にそっくり。

 お兄様や私、それに他の使い魔たちをひとつに合わせたような彼女は、私をじっと見ている。

 なるほど、だから賑やかな所が好きなのね。

 私が笑って「ただいま」と手を振ると、女の子は私とそっくり同じ仕草をして、嬉しそうに微笑んだ。



お題「鏡」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る