miracle
麗らかな晴天、秋の佳き日に、私は愛する悪魔と並んで歩いている。片手でキャリーケースを引き、もう片手に土産物の紙袋を提げて。男は手にしたガイドブックを見つつ、これから私たちが向かう国についてレクチャーしてくれている。
「……それで、その街の名物は三角形に石を積み上げたメルヘンチックな屋根の家屋で……って、天使サマ? 聴いてるか?」
黒い瞳が私を捉え、不思議そうに瞬く。すらっとした細身の後ろから黄金色の光が差し、服まで黒に統一した彼の黒髪の輪郭を曖昧に溶かす。私は微笑んで答えた。
「ああ、聴いていたよ」
「ならいいんだが。ぼうっとしているようだったから」
それは、この瞬間があまりに幸福だからだ。
共に並んで歩けること。
「ラブ。今日の陽射しはいつにも増して美しいね」
「……そうだな」
私がこの男に気持ちを伝え、それが成就したあの静かな月面とは、また違った美しさに満ちた光。天上の、全てを清め尽くすような白さとも違う……、楽しげな予感に満ちた光だ。
主の祝福を受け、私たちが結ばれた日から今日で三年。そんな記念日には、これ以上ないほど相応しい輝きだ。
「こんな日に一緒に旅行に出かけられるなんて、素敵だな」
私が言うと、男は柔らかく目を細めた。その眼差しの奥に見える魂の炎も、穏やかに揺れている。
「本当に」
時は止まることなく巡る。人の営み、非喜劇は繰り返され、天使と悪魔はそれに合わせてステップを踏む。
しかし、私たちにできることはそれだけではない。
「いつのまにか私たちには、奇跡が日常となったみたいだね」
共に歩むこと。語らうこと。旅すること。感情を、経験を共にすること。
「そしてそれはこれからも続く。だろ」
「その通り」
笑い合い、歩を進める。奇跡に彩られた世界の、新たな一日へ。
二人で。
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