第39話 最高の拾い物

慧仁親王 堺 1522年


 今、俺達は鴨川を下り、淀川に入り、堺の街を目指している途中だ。川の上はまだ少し寒くて、大原で作って貰った毛皮を羽織って寒さを凌いでいる。言継は川下りが初めてなのか、真っ青な顔をして今にも吐きそうだ。俺はまだ体重が軽いので、もう何回も舟から放り出されそうになるが、その度に行雅につかまれて命拾いをしている。河口に近づくにつれて、流れも緩やかになった所で、もう一回り大きな船に乗り換えて、そのまま堺を目指す事になる。


〜・〜


 やっと堺の港が見えて来る。あれは、天王寺屋のお迎えかな?


「殿下、お待ちしてました。船旅は如何でしたか?」

「迎え、ご苦労。船旅はとにかく寒かったよ」

「そう思いまして、火を焚いてございます。ささ、お近くで体を温めて下さい。猪汁をご用意しております」


 天王寺屋、なかなか出来るな。焚き火にあたりながら、猪汁を頂く。


「温かい。猪汁は芯から温まるなあ」

「本当に生き返った心持ちになります」

「ありがたきお言葉、家の者も悦びます」


〜・〜


 昨夜も色々と歓迎会をして貰ったのだが、旅疲れには勝てず、早々に宴を切り上げて眠りについていた。今朝は朝餉の後に旧結城屋を見に行き、改装の打ち合わせを行う。堺での拠点にするつもりだ。


「天王寺屋には申し訳ないが、改装が終わるまで、厄介になります」

「勿体ないお言葉、痛み入ります。しかし、お気にされる必要は御座いません。いつまでもお使い頂いて構いません」

「うぬ、暫くは甘えさせて頂く。それでな、拠点の使用人を探して貰いたいのだが、良いか?」

「御意に」


 拠点は3棟。1軒目は居住空間。2軒目は謁見の間を含む迎賓館。3軒目は長屋風宿泊施設を作って貰う事になった。居住空間は大原同様に、ベッド、テーブル、椅子、ソファ付く予定。迎賓館は謁見の間と公家・大名の宿泊施設。長屋風宿泊施設は従者の宿泊施設となる。となると結城屋跡地だけでは敷地が足りず、周囲を買い取り敷地を確保して、長屋風宿泊施設だけは更地から建設して貰った。


「一条様がお見えですが、如何致しますか?」

「ほう、意外だな。少し待たせといて下さい」

「畏まりました」


 天王寺屋の使用人が下がると、行雅と言継を近くに寄せて話し合う。


「一条はどうしたら良いと思うか?」

「摂関家ですからね、もう一度、機会を与えても良い様に思いますが」

「そうだな〜、う〜ん」


 すると、また天王寺屋の使用人がやって来て、


「失礼します。三好元長様がいらっしゃいました」


 と、元長の来訪を伝える。何と言う素晴らしいタイミング。決まりだな。


「済まぬが、ここに案内して下さい」

「畏まりました」


 元長がこの部屋に案内されてやって来る。


「元長に御座います。堺までの長旅、お疲れの事と存じますが、ご挨拶だけでもと参上仕りました」

「うぬ、ご苦労。先ずは座ってくれ」

「はっ。失礼致します」

「実はな、元長、今、一条が来ておる。公家だけあって話の進捗が遅い。潰しちゃおうと思ったのだが、どう思う?」

「そうですね、話しの流れが分からないので何とも」

「そうだな、話しの流れとしては……」


 先日の話を掻い摘んで話す。すると元長は笑い出し、


「ハハハハハ、殿下も些か気が短こう御座いますな。威嚇には成りますが、使える者は使った方が良い様に思いますが」

「うぬ、そうなんだが、公家ってハッキリしないからな〜」


 行雅も言継もそれを聞いて苦笑いしている。


「そうだ、お前の取りなしで、もう一度話を前に進めるって感じで話せば、四国平定もやり易いかも知れないな。元長、それで良いか?」

「そうして頂ければ、こちらとしても助かります」

「よし、それで行こう。元長も着いてまいれ」


 皆を連れて部屋を移動する。そこには平伏した房通が待っていた。


「一条房通に御座います。本日は先日のお詫びの為、お目通り願いました。謁見、実に有難き幸せに存じます」

「うぬ、俺の相談役の元長が、話だけでも聞けと言うのでな、話だけは聞いてやる。で、一条としては如何する?」


 房通は元長に目礼をして、俺に向き直り、話しを始める。


「一条としましては、土佐一条を畿内に戻す事と致します」

「出来るのか?約束、出来るのか?」

「はい、必ずや」

「そうか、その返事が欲しかった。では、その証に家忠を俺に仕えさせろ。良いな?」

「叔父上をですか?話をしてみます」

「はぁ?」

「いえ、御意に。家忠を殿下に」

「うぬ、良かろう。土佐一条に話をして、家忠が俺の下についたら、そこから話を始めようと。良いな」

「はっ、承知致しました」

「うぬ、下がってよい」


 おお、さりげなく宗珊ゲットだぜ。土佐一条家は宗珊を使えば上手く行くだろう。元長に目をやり、房通と話しをする様に催促すると、心得たとばかりに元長も下がって行く。

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