第37話 ゴロゴロゴロゴロ、クセになった

慧仁親王 京都御所 1522年


「行雅、兄者の部屋へ行く、先触れを頼む」

「はっ、承知いたしました」


 さてと、姉様のアシストしなきゃね。


「兄様、慧仁です」

「入っていいよ」


 相変わらず愛想良く、人好きのするお顔立ち。


「実はご相談があり、謁見させて頂きました」

「あ、言葉使い、普通で良いよ、聖良姉様みたいで」

「助かります」


 ニコニコと、つい笑みが溢れてしまう。


「兄様、人払いを、行雅、人が近寄らぬ様に見張ってて」

「姉様が若狭を返して貰った話は聞きました?」

「ああ、びっくりしたね。1日で落としたんでしょ?8人で」

「8人だったんですか?凄いですよね。でもね、たぶん、後の事は考えて無かったと思うんですよ」

「ああ、あり得る」

「あり得ますよね。ふふふふ。それでですね、覚彦を若狭に入れるのはどうかと思いまして」

「覚彦をですか」

「実は、俺は9歳で死ぬんですけど……」

「真実か!」

「はい、俺がこれだけ動き回ってるんで、行く末も変わって来てると思うのですが」

「うぬ」

「声を上げないで下さいね。9歳で死ぬって言うか、殺されるんですよ、伊予に」

「何だって!」

「まあ、これは仕方ないですよね。死にたく無いけど。同じ日に生まれたのにね、覚彦は4歳で寺に出されるんですよ」

「それは仕方ないんじゃないか?」

「仕方ないんですが、母親としてはやっぱりね、色々な気持ちがこうね」

「んー、それも分かるな」

「そこで、覚彦と壬生家に若狭を頼もうかと、壬生家も大宮家と揉めてるみたいだし」

「ああ、伊予は壬生家か」

「それで、名目だけでも、兄様に覚彦の後ろ盾になって貰えないかと」

「良いよ」

「まあ、少し考え……ああ、宜しいのですか?」

「弟だからな」

「では、その方向で、伊予に話してみても良いですか?」

「何か済まない、私が嫡男なのにな」

「いえいえ、これから1番大変になるのは兄様だって、俺も聖良姉様も分かってるから、ヒヒヒ」

「ちょ、怖い事言うなよ」

「兄様、大好き」


 ムギュッとハグを大サービスして、部屋を退いた。


「行雅、まず、伊予様にお話があるので、出来れば今日、ダメならいつなら大丈夫か聞いて来て。壬生家にも関わる話だと」

「はっ、畏まりました」

「言継、食事用意して貰って」

「御意」


 さてと、疲れた〜、ゴロゴロゴロゴロ、ゴロゴロゴロゴロ。


〜・〜


「……」


「……」


「……ねえ、俺って2歳児だよね!2歳児が食費入れてるよね!何で魚の一つも出ない訳!納得する説明出来る人呼んできて!」


 まったく、食事って大事だよね。日本人はね、性欲より食欲を優先する民族なんだよ。世界で日本人だけなんだってよ。まったく、そんな日本人のアイデンティティを蔑ろにするって、食費入れないよ!台所は横領してるんじゃ無いの?!


「まったく、言継。これから俺も、俺に近い人間も、1日3食にするからね。これ、台所にも伝えておいて。で、伊予様は何て?」

「はっ、壬生家にも関わる事でしたら、一刻後においで下さいと。壬生の者を呼ぶそうです」

「分かった。ちょっと昼寝するから1人にしてくれ」

「はっ」


 ゴロゴロゴロゴロ、ゴロゴロゴロゴロ。


「殿下、宜しいでしょうか?」

「入れ」


 弥七が入って来る。


「手の者が姫巫女様から書状を預かって参りました」

「うぬ、ご苦労」


 書状には乗っ取りの顛末と、人を寄越して欲しい旨と、水軍を作る算段と、国人衆を呼びつけた事、宗滴も呼びつけた事などが書いてあった。思ったより律儀なんだなぁ。意外。ああ、何か落ち着いた。眠くなって来た。

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