第31話 みんな大好き姫巫女登場

聖良女王 京都御所 1522年


 もう、神憑りって何?。クスッ。


「尚子!着替え、キヨ!馬を用意して」


 上は白衣、下は黄丹袴の巫女衣装に変身。下は緋袴じゃ無くて、皇太子色の黄丹色だよ。腰には小太刀。


「準備は良い?行くわよ」


〜・〜


 私がこの子に転生したのは、2歳の冬だった。病弱だったこの子は、2歳の冬に早逝したらしい。そこに飛び込んだのが私の魂なのかな?たぶん、そんな感じなんだと思う。誰も説明してくれないし。

 それからが大変だった。魂が入れ替わっても病弱な身体は変わらない。食事療法から始めなくては。尚子を呼んで、体質改善の相談をすると、『ここでは難しい。神社を隠れ蓑に身体を鍛えますか?』と提案された。どうやって了承を取ったのか分からないが、尚子は大和国に在る斑鳩神社への下向を勝ち取って来た。

 下向の際には、ユキを筆頭に6名の女性の志能備が充てがわれ、私の体質改善と言う名の修行が始まる。日中は巫女仕事、食事はジビエや山芋などを主体に丈夫な身体を作った。運動は散歩から始めて、徐々にジョギング、ランニングに移り、馬術、弓道、小太刀、杖術を教わり、最後は調子に乗った志能備達に、暗器術まで教わった。元々◯体大出身の私である。大きな石を氷の上で滑らせてたマリリンと同期だ。身体を動かすのは大好きなので、私自身も上達するのが楽しくて夢中だった。体も大きくなり、武術等も身につけたある日、おたあ様が倒れた。割りとシリアスっぽい。急いで荷物を纏めて御所に戻った。私は8歳になっていた。

 おたあ様は弟を産んだ後に調子を崩していたらしい。

 私が奈良で修行している間に、弟妹が3人も増えていた。上の弟の方仁は頭が良くって可愛い。後の正親町天皇なのかな?妹の永寿はお人形さんみたいで可愛い。下の弟の慧仁は生まれたばかりで可愛くない。笑わないんだもん。何かジーっと見てるし、シカが授乳してる時の目もイヤらしい。覚恕は腹違いの筈だから、この子は別の子ね。

 朝晩、弟達を連れておたあ様のお見舞い。後は方仁にアラビア数字を使った四則演算と九九を教えている。体育大出でも、それくらいは教える事は出来る。だって受験勉強は頑張ったから。読み書きは何処かの公家が教えに来てるらしい。

 こうして夏が過ぎ、秋が深まり、冬の足音が聞こえ始めた頃、長い闘病の末におたあ様は薨去した。おたあ様には思い入れは無いけど、泣き縋る弟達を見てると、貰い泣きをしてしまう。


〜・〜


部屋の縁側で月を見ながら黄昏れていると、尚子が静かに隣りに座り、私の頭を撫ぜてくれた。


「何で何も聞かないの?」


 ずっと疑問だった。何も聞かずに体質改善プログラムを叶えてくれた。何でよ。


「真実を聞いても、聞かなくても、聖良様は聖良様です。……それまでの聖良様はずっと床に臥せっておいででした。私は何も出来ずに見守るだけで、そして本当は最後も私が……」


 私の髪を撫でていた手が止まる。


「私の夢は……手毬の様に転げ回ってる聖良様を見る事でした」

「じゃあ、私は誰かの役には立てたのね」


 再び私の髪を優しく撫で始める。


「願わくば……ずっとこの先も夢の続きを見とう御座います」

「迷惑をかけるかも知れないわ。また、同じ様に無理難題を押し付けるかも」

「それもまた、私の夢です」

「フフフ、それじゃあまるで、おたあ様じゃない」


 尚子に向き直り、ギュッと抱きつくと、尚子は髪を撫でてた手を下ろし、ギュッと抱きしめてくれた。


「そうですね、まだまだですが」

「そうね、まだまだね」


〜・〜


「慧仁はどこ?」


 騒々しさに、奥から出て来た作兵衛は、キヨと目が合い、キヨが頷くと、


「殿下は離れに御座います。ご案内させて頂きます」

「頼むわ」


 渡り廊下の先に、離れが見えて来る。


「お客様をお連れしました」


 返事も聞かずに襖を開けて入って行く。先ずは2人で話し合いね。慧仁の侍従を見下ろしながら、


「2人だけにして、話しが聞こえない所まで下がって控えてなさい」


 そそくさと言われた通りに出て行く3人。さて、かましましょうか。


「慧仁、あんた転生者でしょ」

「え?」

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