第27話 準備しないと
慧仁親王 京都大原 1522年
スリングは明日にするって事で、下見の続きをしよう。
「弥七、静原に先触れを出してくれ。静原川と道が合わさる所で村長と待ってて貰ってくれ」
「御意」
静原への視察は、精錬所の場所決めだ。これから毎月、500貫近くの銭が運ばれて来る。そこで撰銭をして貰って、良銭は給料などの支払いに、悪銭は精錬して貰う算段だ。
街道を京都方面に向かい、飯導寺神社の先に在る脇道を右に曲がると静原に抜けられる。結構キツい坂道を上って緩やかになって来た先に、人影が見えて来る。もう、村長と数人の村人達は着いていた。俺達に気づくと跪き平伏する。
「出迎え済まない、慧仁だ。宜しく頼む、面を上げてくれ」
村人達は、いつも通り先ずヤクーに驚き、そして俺に驚く。
「慧仁殿下、この度は静原へ、ようこそお出で下さいました、村長の玄次郎と申します」
「うぬ、実はな、少しこの地に興味がある。この静原川を上った地を案内してくれ」
「何も無い土地ですが、宜しければご案内いたします」
ヤクーに乗ったまま、村長の案内で静原川を上って行くと、1kmくらいで行き止まりになる。丁度良い広さだ。
「なかなか良いな、ここを精錬所用地とする」
そう宣言すると、村長との打ち合わせの為に近くの農家を借して貰った。
「この地区に住む皆には越してもらう。もちろん費用は此方が持つ。玄次郎、差配を頼めるか?」
「はい、お受けします」
「玄次郎の村には、番匠はおるのか?」
「はい、1人おります」
「弥七、静原に人をやって番匠を呼んで来てくれ。あと、お腹空いた。大原にも人をやって、食べる物を揃えて持って来てくれ、ん〜、そうだな10人分くらいかな」
「御意に」
人をやってる間に、玄次郎にこの地の大まかな用途を説明した。
「精錬所ですか?」
「そうだ、信用できる人間が欲しい。人手も欲しい。静原は人手を出せるか?」
「今の所、出せそうにもありません。この度の長い戦乱、どの村も同じ様だと思われます」
「そうか、今暫くの辛抱だ。必ず近い内に戦の世も終わらせる」
四半刻程すると、番匠がやって来た。
「番匠の大五郎にございます。お呼びで御座いますか?」
「おー、態々済まない。仕事の依頼で呼ばせて貰った。慧仁だ、宜しく頼む」
玄次郎に向いて話しかけたのに、横の幼児が返事をしたので驚きの表情を見せる。お約束。
「仕事の依頼ですか。宜しくお願いします」
「うぬ、実はな、この静原川沿いに精錬所を中心とした集落を作ろうと思ってな、それの全体的な親方をお願いしようと呼んだのだ。玄次郎が其方の事を褒めてたのでな、どうだ、やって貰えないか?」
「村長がですか、それじゃあ引き受けない訳には行きませんね。ひとつ気合入れて仕事させて頂きます」
「うぬ、それでな、大原には人手もあるから、大原の大作と相談して必要な人手を大五郎の裁量で構わぬから集めて欲しいのだ」
「承知しました」
「では、外の方が説明しやすいだろう、外に行こう。村長も来てくれ」
ちょうど大原から食事部隊が戻って来たので、食事の用意を指示して外に出る。
「まず、あそこの脇道を入って曲がってきた、あの森の切れ目の所に門を作る」
と指を差しながら説明を始める。
集落の入り口に関所的な門を作るり、警備員の控え所も作って貰う。門の前には植林をして門を目立たなくする。門の先には更衣室・休憩室・簡易宿泊施設等をつくり、その先に今後の拡張を含んだ作業場、最奥に厳重な蔵を作る。
「と、この様な集落だ。他の番匠や手伝いには漏らさないで欲しいのだが、この集落では銭を扱う。信用のおける者を雇って欲しい」
「銭ですか」
「うぬ。だから蔵は特に頑丈にな」
「はっ、畏まりました」
よし、皆で飯にしよう。
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