第44話 私の海について語ってみようか
海は近いが遠い場所で育った。さらにその海は内海で、凪いでいて穏やか。砕けるとか白波が立つとか、私の中の海にはあまりそういう荒々しさはない。もっともそれがいわゆる海であって、荒れているという状態ではないらしい。
と言うのも……、大学の夏合宿で初めて太平洋を見たとき、嵐が近づいていると思って慌てたことがある。振り返って「危険です」という私にみんなは目を丸くした。「どんな海で育ったの」と言われ、恥ずかしくて「銀盤のような」と抽象的に答えたにも関わらず全員が納得したのはいうまでもない。
そんな私がロングアイランダーになった。NYの一番南、大西洋に浮かぶ細長い島の住人だ。島といっても合衆国本土で最長最大、西端はクイーンズ&ブルックリン、その向こうはマンハッタン、感覚的には大陸に近い。
しかし南北はビーチ。北はコネチカット州との間の内海で、穏やかで過ごしやすい。南は有名なビーチが目白押しだが風の強さが強烈。でもきっと、海好きの方にはこれがまさになのだろう。
南北は風の違いもあるけれど、もっと顕著なのが浜を構成するものだ。北浜は小石、南浜は砂。「ビーチは砂派」の人が圧倒的だが、私はこの小石を集めるのが好きだったりする。白やピンクやオレンジや黄色。可愛くて優しい色合い。ビーチコーミングともなれば、ロマンあふれる漂流物の大西洋側が圧倒的に強いだろう。けれど私はゆるゆるとした波の下のカブトガニを見ながら小石を拾う。至福のときだ。
このカブトガニ、東海岸のどこででも見られるが、初めて見たときは驚いた。それは「ポニョ」の世界だ。カンブリア紀かデボン紀か、いやジュラ紀か白亜紀か、まあどれも間違ってはいないだろう。彼らは4億5000万年からこの世界にいるらしい。これがごまんといるのだ。浅瀬で海水に浸かっていてぶつかる相手はカブトガニ、なんともシュールである。
そんなわけで私にとっての海は静かでまったりとして眺めるもの。昼下がりのカブトガニとビタミンカラーのキャンディーストーン。たまに波間を横切っていく白鳥。ロングアイランダーになってもやっぱり凪を愛する自分を見つけ、くすりと笑わずにはいられない。
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