第28話 ファン
「騒がしいな。こっちは取り調べ中だぞ」
真田刑事は面倒臭そうに立ち上がると、取り調べ室のドアを開けた。その瞬間、雪崩のように制服姿の高校生達が部屋に飛び込んできた。最初に突入してきたのは、アメフト部でも通用しそうな体躯を誇る木村だ。木村は勢いそのままに、真田刑事を突き飛ばした。
「ぐわっ」
木村に続いて取り調べ室に入ってきたアリサが心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「モーちゃん、大丈夫?」
「僕は大丈夫だけど、刑事さんが・・・」
「え?刑事?どこ?」
アリサは顔を左右に振って周囲を確認したが、どこにも刑事の姿は見当たらない。その時、アリサの足の下で何かがモゾモゾと動いた。
「キャー」
悲鳴を上げたアリサが横に飛ぶと、真田刑事がゆっくりと立ち上がった。白いワイシャツの胸の部分に、くっきりとローファーの靴底の跡がついている。どうやらアリサは真田刑事を踏んでいたことに気づかなったらしい。
「お、お前ら・・・警察を舐めやがって。公務執行妨害で全員逮捕するぞ」
こめかみに青筋を立てた真田刑事が、闖入者達をギロリと睨んだ。真田は、自分を容赦なく突き飛ばした木村をはじめ、部員達の顔に嫌悪の眼差しを向ける。しかし、アリサの顔を見ると態度が豹変した。ポッと顔を赤面させたのだ。そして、モジモジしながら、
「あ、あ、あれ、ま、ま、まさか。あ、あなた様は、あ、あ、あの、トットトップモデルの、き、き、岸川アリサ様ご本人様でありますでしょうか?」
とアリサに訊いた。
あまりの変化に唖然としたアリサが頷くと真田刑事はさらに頬を紅く染め、直立不動の姿勢で敬礼をした。そして、
「出雲市警察署へ、ようこそ!」
と歓迎の言葉を述べたのであった。
真田刑事は岸川アリサの大ファンらしい。
こうして急に腰の低くなった真田刑事の案内で、僕達は応接室に移動したのであった。
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