第24話 アリサ部長の宣言
アリサが言葉を失っていると、心配そうに顔をのぞいた田代が恐る恐る、
「この高校生って、もしかして光のことじゃ・・・キッショ」
と言った。田代の顔も強張っている。
「んなわけないわよ。あの優しいモーちゃんに人を殺せるわけないわ。無理よ」
強く否定したアリサだったが、その表情はどこか沈みがちだった。
再び部室の外から足音が聞こえてくる。
「大変だ」
ドアが勢いよく開くと、巨体を揺らしながら部員の木村が入ってきた。
「サンライズで起きた殺人事件の犯人ってまさか...」
と木村が言いかけると、
「違うわよ!」
とアリサが大声で遮った。
つづいて、持ち運び式の小型扇風機で風を顔に当てながら、色白の部員が入室してくる。酒井だ。酒井が何か言おうと口を開けた瞬間、
「だから違うってば!」
とアリサが叫ぶ。
呆気に取られた木村と酒井は、目をパチクリさせていた。
さらに沢村と齋藤と熊谷が部室に入ってきたが、アリサの鋭い眼光に晒された三人は口を開くことすらなく、空いている席に黙って腰掛けた。これで、鉄道研究会の部員が全員揃ったことになる。
男子部員達の視線が、部長のアリサに集まった。今日はいつものダラダラとした雰囲気とは異なり、緊張につつまれている。アリサは真面目な表情で、
「みんなも知っていると思うけど、サンライズで人が殺されたらしい。モーちゃんが容疑者になってるみたいだけど、モーちゃんに人殺しができるはずないわ。なんか他に情報持ってる人いないの?」
と男子部員達の顔を見回しながら問いかけた。
「さっきXを見てたんだけど・・・」
身体は大柄だが、声はとても小さい木村がボソボソと話し始めた。
「殺されたのは、マッスルトレインさんらしいよ」
木村の報告を聞いた部員達に衝撃が走った。男子部員達はお互いに目を合わせて、何かを伝えようとしている。この不審な行動に気づいたアリサが、
「何よ。言いたいことがあるなら言いなさいよ」
と迫った。
鉄道研究会の男子部員達は、誰が発言するべきかについて、アイコンタクトだけで必死に議論しているが、意見はまとまりそうにない。痺れを切らしたアリサは、
「まさか、マッスルトレインさんに罵声を浴びせられたモーちゃんが根に持って殺したとでも言いたいの?」
アリサの追求に、男子部員達は黙りこくってしまった。
何分か沈黙が続いたあと、スマホをいじりながら、酒井がおずおずと声を上げた。
「あのぉ、アリサ部長。今、最新のネットニュースを見ていて分かったんだけど、マッスルトレインさんは深夜0時前後に殺害されたみたいだよ」
と報告した。つづいて熊谷が疑問を呈する。
「その時間って、ライブ配信してなかったっけ?」
するとアリサが、
「そうよ!モーちゃんは、一歩も部屋から出ていないわ。私達全員が証人よ」
と同意した。
「アーカイブにも残ってるし。もし、モーちゃんが犯人扱いされているなら、潔白を証明できるね」
齋藤が畳み掛けるように言うと、アリサは突然立ち上がり、
「それなら、行こうよ」
と部員達に呼び掛けた。
「行こうって、どこに?」
木村が蚊の鳴くような小さな声でアリサに訊く。
アリサは、自信に満ち溢れた顔で、
「出雲に決まってるでしょ」
と宣言した。
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