3章

1 弓特訓


 二手に別れて数日、パーティの人数が半数になったわけなのでやること自体は増えたけれど、こちらに召喚されて既に三ヶ月くらい? ほとんどの期間を旅しているようなもので、色々なことに慣れ手間取ることはそこまでなかった。変わったのは、毎日の魔法訓練に加えて、テオドールとの弓特訓が追加されたところ。魔法は引き続きバルトルトが見てくれている。

 弓は和弓に近い形のものが合ったので、それを手に入れて練習に使用している。最終的に矢の部分は魔法にしたいけれど、イメージをしっかり固めるためにも、まずは本物の矢で練習だ。イメージが追い付けば精密な狙いは無くても良いかもしれないけど、やはり実際の武器を扱えて悪いことはない。


 矢を弓につがえて、今回の的である一本の木を見据える。ぎゅっと左手で弓を握りこみ、そのまま上から引き絞って……放つ。

 弓道の的に向かって引いていた時と違い、木に突き刺さるドスっとした重い音で改めて現実感と緊張が生まれる。当たり前だけど、これを動物や、場合によっては人に向けて放つのだ。ああ、あの小気味良いスパァンとした音が懐かしい。

 かじった程度の弓道だけど、練習では落ち着いて引ける状況なので、指定された動かない大きな的に当てることは何とか出来ていた。

「本当に全くの素人ってわけじゃないんだな。

 見たことがない構えだが、そっちの世界のものか?」

「うん、その昔は実戦で使っていた型なんだって」

「まあ実際使うにはまだまだだな」

「もちろんわかってます!」

 見た目の綺麗さより殺傷能力優先、とか先生が言っていた気がするけど、教わった通りにしか引けない素人に毛が生えた程度の私には良く分からない。ただ引いているときに心の凪ぐような感覚が好きだった。今の型も落ち着いて儀式のようにやるものしか知らないし、文字通り矢継ぎ早に状況の変わる実戦では使い物になるはずがない。

 それはそうと、弓を引くのに顔回りの髪がちょっと邪魔だな。まとめたりあげたり出来るようにしなきゃいけないな。

「最終的には弓は魔法発動の補助だけど、ちゃんと扱えるようになりたいし」

「どんな魔法にするか考えてるのか?」

 テオドールの言葉に頷く。今はノートに色々書き出して、案もまとめているところ。書くと考えってまとまるよね。

「えーと、空に向かって放ったら上から分散して敵だけに当たるとか、逆で味方にだけ当てて治癒をかけるとか、光弾を打ち上げて合図に使うとか……」

 魔法はイメージ、自分の意思によるわけだから、当てたくないと思っている人やものには影響を出さないとか、自動追尾とかもできるようになったりしないかな?

 プレイしていたファンタジーのゲームを参考にしているけれど、最近のゲームはグラフィックが綺麗だったのもあって、頭の中で思い描きやすいから助かる。無駄に派手になりそうだけど、ハッタリにも使えて良いかも?

 思いつくまま考えている案を並べていると、テオドールはくつくつと笑いだした。

「弓がなくても出来そうなものばっかりだな」

 ……言われてみれば確かにそうだ。でも、弓を引くというモーションがあることで、よりイメージしやすくなりそうなので良いのだ!!

「まあ、やれるだけやってみろよ。できる限り手伝ってやるから」

 そう言ってテオドールはニッと笑う。

 だから! その顔は!! 反則!!!

 弓特訓を始めてわかったのは、テオドールは面倒見が良くて、思ったよりも笑うということだ。そもそもが『彼』と同じ顔なわけだから、そんな風に笑われると、どうしても心が波打ってしまう。自信ありげなその表情が似合いすぎるでしょ。

 『彼』も元々身内には面倒見の良いキャラなんだよなぁ。それにしても、最近は大分親切にしてもらってる気がする。願いを叶えるための『神の御使い』として御しやすくしておくためか?!とも思ったけど『彼』は──この世界のテオドールはそうかわからないが──そんな機嫌取りをするタイプでもない。単純に、話す機会が増えて打ち解けてきた、ということだと……思う。


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