5 願い事
『ユメヒカ』攻略対象者達は、皆叶えたい願いがありそれぞれ旅をしている。『神の御使い』であるヒロインに協力するのは、その願いを叶えてもらいたいという打算的な気持ちもあるのだ。物語では、最終的に願いは彼らのために使っているので皆その望みが叶えられる。ただ一人を除いては。
◆
『ユメヒカ』の攻略対象キャラは、全部で五人いる。
メインヒーローの剣士レオンハルト、彼の願いは世界平和。
レオンハルトとパーティの魔導師アルフレート、彼の願いは師匠を助けること。
私の推しテオドールとその弟バルトルト、彼らの願いは一族の呪いを解くこと。
そして、光の神殿の神官ニコラウス、彼の願いは、自らの命を断つこと。
レオンハルトとアルフレートは召喚後のヒロインに協力をしてパーティを組む二人で、テオドールとバルトルトは願いを叶えてもらいたいがために、あわよくばヒロインを自分達のパーティに引き入れようとしてついてくる。
この四人は最終的にどのルートでも願いが叶えられるので問題ないのだけど、最後の一人──神官のニコラウスは、ラスボス闇の神に深く関係してしまっている。彼だけは、個別ルートに入る以外は、生きて救われるという本当の意味での救済が不可能なのだ。
余談だが、どのキャラもある程度親密度が高くなると、名前を短くしてあだ名呼びすることを許可される。レオンハルトはレオン。アルフレートはアル。テオドールはテオ。バルトルトはバルト。ニコラウスはニコ。ファンの間では、ニコラウスはもっぱらニコちゃんと呼ばれていた。
閑話休題。
◆
「私は……もし三つは願いが叶うなら、ニコちゃんにも幸せになってもらいたい」
「そう!そうなの!! ニコちゃんは誰のルートでも死んじゃうから、是非生きて欲しいよね……」
目の前で聞いていた瑠果ちゃんも、深くうんうんと頷いている。
「瑠果ちゃんは、ニコちゃんのルート……っていうのはちょっと抵抗があるね。
ニコちゃんと……ええと、仲良くなる方向で考えているの?」
「実は私、元の世界──神月瑠果が生まれた方の世界ね。
あっちの世界の幼なじみと……その、付き合っていて。そういうのはないかなと……」
「ええっ、そうなんだ!」
これは……この世界に来て一番の驚きかもしれない。ヒロイン役の瑠果ちゃんは、誰とも恋に落ちる予定がない。やっぱりここは『ユメヒカ』そのものではなく、それに良く似た世界、という方がしっくりくるようだ。
「だから、私は特に叶えたい願いは無いの。強いて言うなら元の世界に帰りたいけど、それは役目を終えたら帰れるのかなって……」
悠希さんは? と、そっと視線で問われる。
物語上レオンハルトの願いは闇の神を倒すことで叶えられるので、本編で叶えるのはアルフレートとテオドール達の願い。そして残りひとつはヒロインと恋仲になったお相手と一緒に居るために使われていた。つまり、瑠果ちゃんが誰とも恋仲にならないなら、現時点で三つ目の願い事がフリーということになる。
「この隷属の指輪が外れないのはちょっと困りそうだけど……
私はそれより皆の願いを叶えて幸せになってもらいたい!」
その願い事を使って、万一の時はニコラウスも助けることが出来るかもしれない。それなら、私の望みはひとつしかない。
「……わかった!
そうしたら、もし願い事が三つだけだったら、アルフレートとテオドール達の願いを叶えて、最後の一つはニコちゃんを助ける。……これで大丈夫?」
「うん!」
私と瑠果ちゃんは、どちらともなくがっしり握手を交わし頷きあった。彼女は私と同じ方向性で『ユメヒカ』が好きなようで、すごく嬉しかった。
「たぶんね、その指輪も、アルフレートのお師匠さんが何とか出来るんじゃないかなって思ってるの」
「そっか……確かに、あの人なら外せそうかも」
アルフレートの師匠であるその人物は、アインヴェルト屈指の魔導師と書かれていたはず。願いを叶えてもらい彼を救うことが出来れば、きっとなんとかしてもらえるだろう。指輪の方も宛てができそうでひと安心だ。
「今日はここまでにして、また明日続きを話そうか。結構時間も経ったし、精神的にも疲れてると思うの」
部屋の外は、すっかり夜になっていた。気遣う瑠果ちゃんの言葉に、急にどっと疲れが出たてきたような気がする。確かに、今日は色々有りすぎた。色々有りすぎて、召喚時のあれこれが大分霞んだのは有難いけれど。……いや、深く思い出そうとするのはよしておこう。
「私は隣のベッドだから、何かあったらすぐに起こして大丈夫だよ」
「うん、ありがとう」
皆に一度報告してくるね、と言い残して、彼女は部屋を出ていった。
ベッドに横になると、とたんにまぶたが重くなる。
なんだかすごいことになっちゃったなぁ。そういえば、瑠果ちゃんは治癒をかけたって言ってたけど、もしかして私も使えるようになってたりする? 明日聞いてみよう。
目が覚めたらやっぱり夢でしたーってなっても驚かないな。もし夢でも、こんなにリアルな『ユメヒカ』の皆を間近に見られたなら、それだけですごく満足だ。だけど、できれば、もう一度。明日またこの世界で目が覚めるなら。この世界のテオドールに会いたい。
うとうととりとめのない考え事をしながら、私はぼんやりと眠りに落ちていった。
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