黒猫屋敷のお嬢ちゃん

 お父さんがいなかった。

 お母さんがいなくなった。

 そして弟までも。


 一人になった私に、一緒に帰ろうと手を繋いでくれる人はいない。……そのはずだったけれど、迎えに来てくれた人がいた。

 高校生くらいの、白っぽい金髪のお兄ちゃん。約束だからと手を引かれて、連れていかれた先は、全然人に会えない場所にあるおっきなおうち。


「何をしてもいい。ただ、出ていっちゃいけない」


 他に行きたい所もないから、言う通りにする。

 来る日も来る日も、おうちの中で過ごした。

 ここにはお兄ちゃんの他に、黒猫さんがいっぱいいるから、毎日皆で一緒に遊んだ。

 お兄ちゃんも遊んでくれるけれど、疲れた時はいつも床にゴロンしてる。


「汚いよ、ベッド行きなよ」

「動きたくない」


 お兄ちゃんは意外と綺麗な顔をしてる。

 じっと見てると「何?」って訊かれるけれど、やめてと言われないからずっと見てる。

 ほら、黒猫の中にはほっぺ引っ掻いてくる子もいるから、危ないから、うん。今だってお兄ちゃんのお腹に乗っかってくる黒猫ちゃんいるくらいだし。


 ……ただ見ていたいから見てるだけ、じゃないんだから。

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