第154話【おぼろげだけど見えてきた未来】
――からんからん。
斡旋ギルドのドア鐘の音を聞きながら僕とリリスは指定された窓口へと向かう。
あれからナナリーにはラーズとの面会許可をとるためギルドへ行って貰っていた。
「ナオキ様、お待ちしておりました。
ギルドマスターはすぐにまいりますので第一応接室にてお待ちください」
受付嬢はそう告げると僕達を応接室へと案内する。
「――お待たせしました、ナオキ様。
今日はどのようなご用件でしょうか?」
ラーズギルマスは部屋を訪れると僕に対して一礼をしてから目の前のソファに座る。
むこうからすれば名誉爵位とはいえ貴族相手なのだから対応にも気をつかっているのがわかる。
(あまり気をつかって欲しくはないんだけど頼み事をするには正直たすかるかもしれないな)
ラーズを見ながらそんな事が浮かぶ頭を軽く振り真面目な話として皆で話し合った事の協力を求めた。
「――なるほど。ナオキ様は貴族になられてからも治癒士として町の人々を支えて行きたいと言われるのですね?
素晴らしい心がけにこのラーズは感服しました。
では、新たに建設する屋敷はナオキ様のお望みどおりに設計をする事にしましょう。
これからの準備となりますので申し訳ありませんが約1年程度は今の施設にてお願いします。
あと、治癒魔法のテストをお望みとの事でしたので職員の中に該当する者があれば協力を頼んでみましょう」
ラーズはそう言うと後ろに控えていた女性に条件を説明してギルド職員への伝達を頼んだ。
「少しお待ち頂ければすぐに情報が集まると思います。
ところで、今の話ではこれから新たな薬の開発が進むようですが薬師ギルドとの連携をお考えですか?
それとも専属の薬師を雇われるおつもりでしょうか?」
ラーズの質問に僕は迷わず答えた。
「もし、可能ならば専属で雇いたいと思ってます。
または、ナナリーに調薬の勉強をしてもらうのも良いかと考えています」
「えっ!?」
僕の後ろに控えていたナナリーが声をあげる。
「ああ、ふと思っただけだから無理にとは言わないけれどこれから僕が提供する調薬レシピは僕の患者鑑定スキルとセットで初めて効果があると思ってるんだ。
その患者ごとに違う調薬を頼むならばやはり信用のおける人でなければ駄目だと思うんだ。
それに僕の診る患者はそれほど多くはならないだろうし調薬の頻度もそれほどではないと思う。
そんな不安定な条件で優秀な薬師を専属にするのは町にとっても薬師ギルドにとってもマイナスしかないと思うんだよ。
で、ナナリーならば信用はもちろん大丈夫だし、調薬の必要がない時には別の仕事をお願いしても良いからね。
もちろんナナリー次第だから無理強いはするつもりは全くないからね」
僕はにこりと笑いながらナナリーを見る。
「な、ナオキ様。そ、その笑顔はずるいですよ。
そんな顔をされたら私は断る事が出来ないじゃないですか」
ナナリーが半泣きの顔で抗議をしてくるがその表情の下には確たる信念がくすぶっていた。
「え? ナナリーさん薬師の勉強を始めるのですか?」
リリスが驚きの表情でナナリーに問いかける。
「それでナオキ様のお側に居られるのならば私は何だってやれるつもりです。
ラーズギルドマスター、私に調薬の先生を紹介してもらえないでしょうか?」
「ち、調薬の勉強は数ヶ月程度ではとてもではないがものにはならないぞ。
それでもやると言うのか?
それに専属の教師を雇うとなると相当なお金もかかるし大体いまの仕事はどうするのだ?」
ラーズは戸惑いながらも現実的な質問をナナリーに投げかける。
「お金は僕が立て替えますし、彼女の所属も斡旋ギルドから貴族の侍女として請け負いましょう。
それならば彼女が自由に調薬の勉強をすることが出来るのではないですか?」
「確かに彼女はまだうちのギルドの職員として勤めだしたばかりでしかもこの施設の職員ですので辞められてもそれほど困る事はありませんが私も領都のアルフギルドマスターから彼女の職の保証を頼まれましたので勝手に辞めさせても良いものか判断がつかないのです」
ラーズが困った顔で僕を見る。
「それに関しては僕の方からアルフさんとアーリーさんに手紙を書いておきますので心配しなくても大丈夫ですよ。
あとはあなたの許可とナナリーさんの意思でやれる事です」
「――わかりました。彼女の意思を尊重して対応させて頂きます。
つきましては講師の斡旋を……」
一度決めたらすぐに手配の話になるのはさすが斡旋ギルドのマスターだと感心をしながら僕は彼の話を聞いていた。
「――では、場所はいまお住まいの施設の一室にもろもろの設備を揃えて頂いてそこへ講師を派遣するようにしますのでナナリーさんはそこで講義を受けてください。
調薬をするには薬師の免状が必要になりますので年に一度の試験を受けて合格するしかありません」
――それからもラーズによる説明が続き簡単に考えていた僕は頭を抱えながら「はやまったかな……」と小さくぼやいた。
* * *
「お待たせしました。治癒魔法のテストに協力してくださる人を連れてきましたのでお願いします」
永遠と続くかと思われたラーズの説明に区切りをつけてくれたのは随分前に職員に声掛けをしてくれた女性職員だった。
「ありがとう。助かったよ」
僕はそう声をかけると「じゃあ僕の治癒魔法が有効なのかの確認をするので」と連れてこられた患者に
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