第130話【神の目を持つ男の誤算】
女王陛下が暗殺を実行したメイドから情報を聞き出している頃、占いの館では……。
「――なんだと! 失敗したと言うのか!?」
「申し訳ありません。
ターゲットである女王陛下の息の根は止めたのですが、側にいた治癒士の男に邪魔をされて蘇生されてしまいました。
殺害を指示していたメイドのキーラも洗脳で自害をさせたのですがこちらも怪我を治されて拘束されてしまいました」
占いの館で報告を待っていたゴッツァイは城に送り込んでいた刺客と情報を持ち帰る間者の帰りを待っていたが失敗したとの報告に激怒して側にあった椅子を蹴り飛ばして叫んだ。
「くそっ! 女王を刺して殺害したまではうまくいったのだが、その場にあのクソ野郎がいた事が誤算……いや、奴に女王殺しの罪を着せるつもりだったから奴が居るのは仕方ないが、奴の
ゴッツァイは思い通りに運ばない事にイラつきながらも「なんとか次の手をうたないとあのメイドが調べられたら俺様が指示したのがバレてしまうじゃねぇか」と呟きながら考えた。
(まだ、俺様がやったとは掴みきれてないはずだ……。
どうする? いっそのこと他国へ逃げるか、それとも今の手駒でもう一度暗殺を仕掛けるか……。
そうだ、占いで……)
ゴッツァイは急いで占いの準備をして未来の予測を確かめた。
「この
あの神とやらがケチくさい制約をつけたせいでこんな面倒な手順を踏まないといけないじゃねぇか」
ゴッツァイはブツブツと文句を言いながら女王陛下の未来を予測した。
自身が見れないならば一番自分に害のある者の行動を見ればいいだけだったからだ。
「女王の行動を俺様に見せてみろ」
ゴッツァイがそう言いながら水晶体に魔力を通すと先の未来が映し出された。
「――こっ、これは!? 何かの間違いでは無いのか?」
そこに映し出されていたのは城の地下牢に居る自分とそれを見下ろす女王陛下の姿だった。
(不味い。俺様の未来視能力の確率は100%だ。
あの女王、どうやって俺様の配下の洗脳を見破って対処しやがったんだ!?)
女王陛下の
(マズイ、マズイ、マズイ)
結論の出ないゴッツァイは見たくもない未来を見てしまった為に冷静な判断が出来なくなってしまっていた。
(今までの地位と洗脳した人材の多くを捨てるのは業腹だが、追手が来る前に王都を出るしかない)
ゴッツァイはそう結論づけると館にあったかさばらなくて価値の高い物をかき集めてカバンに突っ込み数人の配下を伴って館から飛び出した。
外は薄暗くなっており、辺りの建物からは部屋の明かりが灯り始めていたがゴッツァイ達はまっすぐに北の門へと走って行った。
「おお、これは神の目を持つと言われているゴッツァイ様ではないですか。
このような時間から外壁の外へ出るのは危険ですが、どちらに向かれるのですか?」
北門へ辿り着いたゴッツァイ達は門兵に町を出る手続きを申請したが危険だから明日の朝にするようにと却下された。
王都は夜になると各門の扉は閉じられて自由に出入りが出来なくなる。
これはこの国に暮らす者ならば常識であり、そのため閉門に間に合わないようであれば無理をして王都へ向かわない事も旅人や商隊の常識であった。
「いいから通すんだ! 俺様の言葉が聞けないと言うのか?」
あせるゴッツァイは門兵へと詰め寄るが「規則ですから」と断られた。
(どうする? この門兵を洗脳して通させるにしても時間がかかり過ぎる。
それに、俺様の知名度が高すぎるから門を出るときに必ず門兵に覚えられる事になる……。
どうすればバレないように王都を出ることが出来る?)
ゴッツァイはそう考えていたが、ふとある方法を思いつき一度館へと引き返した。
「確か、馬車を持っている商人の配下がいた筈だ!
その者に隣の国境近くの町へ向けて出発させろ!
その積み荷の中に紛れて王都を脱出するぞ!
すぐに準備をするのだ!
明日の朝一番で門を出るぞ!」
「はっ! すぐに準備を致します」
ゴッツァイに指示された配下の者達はそれぞれの準備に走り出した。
(あの未来視は状況からみておそらく昼間だったはず。
ならば夜のうちに追手が来ることはないはずだ。
大丈夫、大丈夫だ……)
* * *
――次の日の朝。まだ薄暗い時間帯に占いの館の裏口で荷物の積み込みが行われていた。
「おそらくもう
俺様は門を抜けて町が見えなくなるまではこの水樽のひとつの空樽に隠れておくから上手く門兵から目を反らすのだ」
ゴッツァイはそう配下に指示を出すと樽の中に身を隠した。
――ガラガラガラ。
馬車が荷車を運びながら北の門にたどり着く。
「止まれ! 何処の商隊でどこへ向かうのかを申告して通行税を支払うように」
門兵に止められた御者は自らの商会の証明書を持ってこれから向かう町の報告をするために詰め所に向かう。
御者の離れた馬車では護衛の者と店の従者が側で待機し、他の門兵が積み荷に余計な干渉をしないようにさり気なく邪魔をしていた。
もともと外部からの馬車は検査が厳しいが町から出る馬車は比較的検査緩いので今回も積み荷を詳しく調べようとする門兵は居なかった。
「上手く乗り切れそうですね」
側で監視をしていた一人が樽に向かってボソッと伝えると「まだ気を抜くな」と小声で返ってきた。
その頃、申告をするために詰め所を訪れていた御者の前に一人の人物が立っていた。
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