第128話【女神の気まぐれが起こす奇跡】
「何事だ! これはどうしたというのだ!?」
騒ぎを聞きつけて女王陛下が部屋に入ってくると大声で泣きじゃくるリリスと全く動かないナオキの姿が目に飛び込んでくる。
「女王陛下……ナオキが……ナオキが……」
皆が息をのんだ次の瞬間、リリスが嗚咽をあげながら言った。
「ナオキが冷たいんです。
脈も心臓も動いてないんです。
私、ナオキの状態は前と同じだと思ってたんです。
だから、一晩休めば回復するって……。
でも、違ってた……。
回復するどころか彼の全てが何処かに消えてしまった」
心がここにあらずの状態でリリスの目からは大粒の涙がとめどなく流れていく。
「なんという事だ! わたくしの命を救ってくれた恩人が代わりに命を落とすなどあってはならない!
何か手立てはないのか!?」
女王陛下は周りを見渡すが誰一人として意見を出せる者は居なかった。
「――すまない。わたくしがあのような事にならなければ彼がここまで無理をする必要は無かった。
本当にすまない事をした。
このとおりだ……」
「陛下!?」
こともあろうか女王陛下はベッドに横たわるナオキと側で放心状態のリリスに向けて深々と頭を下げて謝罪をした。
「――さい」
「え?」
「暫くの間、二人だけにさせてください」
女王陛下の謝罪にリリスは彼女を責めるではなくふたりだけにして欲しいと懇願する。
「分かった。望みどおりにしよう」
女王陛下の指示でドアの壊れたこの部屋から隣にベッドごと運び込んでからリリスはそっとドアを閉めた。
「――ナオキ。
嫌だよ……私を置いて行かないでよ。
私が倒れてもナオキが治してくれるけどナオキが倒れても私じゃ治してあげられない。
どうしてそんなに無茶ばかりするの?
ナオキ、お願いだから起きて。
また私に笑いかけてよ……ナオキ……ナオキ……」
リリスはベッドに横たわるナオキの冷たくなった手を握り締め女神様に祈りだした。
「女神様、女神様。ナオキはこれまで多くの人々を癒やし助けて来ました。
私も助けられた一人ですが本当に感謝しています。
その彼がこうして倒れる事を女神様は望んでおられたのでしょうか?
教えてください女神様。
どうすれば彼を救う事が出来るのでしょうか?
教えてください……教えてください。
どうか……どうか……」
リリスの祈りが深くなった時、彼女の意識は別の世界へと呼ばれていた。
* * *
「――ここは?」
真っ白な空間。上も下も右も左も無い世界にリリスはひとり立っていた。
「あらあら、こんな所に生きている人が来ては駄目ですよ」
突然リリスの目の前に美しい女性が現れてそう告げる。
「あの……あなたは? そして、ここは何処なのですか?」
リリスは女性にそう尋ねるとその女性は優しく微笑みながら教えてくれた。
「ここは神の間、本来お亡くなりになった人の魂が神と面会する場所なのです」
「神の間? 私、死んでしまったのですか?」
リリスの問に女性は首振り「いいえ」と答えた。
「あなたは今、深い悲しみの底に沈んでいます。
このままだと本当にあなたは死を迎えてしまう事でしょう。
ですが、あなたの
女性はそう言うとリリスの胸に手をかざすとリリスの中の光が強く輝き出した。
「――ああ、あなたが彼の……。
ふふっ、よくここまで育て上げましたね。
良いでしょう、あなたの願いを叶えてあげましょう。
やり方は――」
その女性――女神はそっとリリスに耳打ちをした。
「あなたの願いが叶いますように――」
その女神が呟くとリリスの身体は白い空間へと吸い込まれて行った。
* * *
「――はっ!?」
突然目覚めたリリスはキョロキョロと周りを見回すが普通の部屋の中に居る自分と現実を突きつけられるナオキの身体がそこにある。
(今のは夢? それとも……)
リリスは自分の胸に手をあててふとある事に気づく。
「もしかして、私の身体って……」
リリスは一度考えを整理して結論を出すと部屋の外に待機していた侍女に暫く部屋に入らないようにと伝えて鍵を閉めた。
(あの女性の言葉と私の考えが合っていれば、もしかしたら……)
リリスはそう考えながらナオキの上着を脱がせて自分も上半身裸になる。
均等のとれた美しい身体をさらけ出したリリスはそっとナオキのベッドに上がり、冷たくなったナオキの胸に自らの胸に押し当てる。
「冷たい……けど、何故か胸の奥が温かい……」
(そうだった。この世界で私が一番ナオキの魔力を貰い続けていたんだ。
特に、結婚してからは野営時以外は毎日ナオキの魔力を注入して貰っていたし、そもそも私も蘇生させて貰ったんだからこの身体にはナオキの魔力が一杯流れているはずよ。
だから魔力溜まりのある胸同士をくっつければもしかしたら魔力の受け渡しが出来てナオキが助かるかもしれない)
リリスは一所懸命にナオキの魔力を思い出しながら祈った。
「ナオキ……お願い……帰って来て……」
リリスの祈りに胸の温もりがどんどん熱を帯びて遂に桜色の光となってリリスの胸からナオキの胸へと吸い込まれていった。
「……ス?」
「えっ?」
初めは空耳かと思った。
「……リリス」
でも、次ははっきりと聞こえあれだけ冷たかったナオキの頬が赤みを帯びていた。
「ナオキ!!」
リリスはナオキの名前を叫ぶと涙を流しながらキスをした。
「ナオキ! ナオキ!! 本当に良かった!!
もう何処にも行かないでよ!
私を置いて行かないでよ!」
リリスはそう僕に言うともう一度キスをしながら抱き合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます