第100話【リリスの臨時受付嬢講義⑧】
「それで試験の結果はどうだったの?」
ギルマスの執務室では試験官の女性がアーリーに試験結果の報告をしていた。
「アーリー様に言われた通り筆記に関しては通常の2級問題を行いましたが、一番大事な窓口業務に関する受け答えのレベルを1級に合わせて試験を行いました」
「そう。それで結果はどうだったのかしら?」
「少しばかり危うい場面もありましたが、基本的に十分合格のラインには達していると報告させて頂きます。
それと、見学をされていたリリス様は試験内容が1級相当であると見抜いておられましたが試験に対する苦情はありませんでした」
「まあ、あの娘も1級を持っているのだから試験内容を見ればすぐに分かるわよね」
「彼女自身もかなり優秀な受付嬢だったのですよね?
その地位を捨ててまで今の仕事が良いのでしょうか?」
「ふふっ、そうね。
一緒に居るのが彼じゃなかったら今頃は普通に受付嬢をしていたんじゃないかな。
それほど彼は常識では計れない才能を持っているのだから」
「確かに彼の活躍は存じていますが、常に彼の側には彼に感謝し、彼に好意を持つ女性が多く存在しますので彼の彼女とか妻になりたいとは思いませんね……。
私は、ですけど……」
「それはあなたが実際に彼に助けられていないからだと思うわよ。
私は彼を最大限に評価してるし、それこそリリスが彼の側に居なければ娘のナナリーをお嫁さん候補として取り込んでいるわよ。
まあ、娘の方はもう諦めているみたいだけどね」
アーリーは心底残念そうな表情でため息をついた。
「アーリー様がそこまで評価される方はなかなか居ませんので少しだけ興味が湧いてきました。
機会があれば一度お話を交わしてみたいですね」
彼女はそう言うと「では、私はこれで……」とアーリーにお辞儀をしてから部屋を出て行った。
(あの娘ももう少し愛想が良かったらすぐにでもギルドの第一受付嬢の座を任せてあげるのに……)
アーリーはそう思いながらクレナに試験結果を伝える事とリリスに依頼完了の報告と報酬の受け渡しの準備をした。
* * *
――コンコン。
「どうぞ、お入りなさい」
時間どおりにクレナとリリスがギルドマスターの執務室へ来ていた。
「失礼します」
クレナが先に入り、その後ろからリリスが静かについて来てドアを閉めた。
「まあ、座って話しましょう」
アーリーがふたりに座るように促すと側に置いていたポットから紅茶を注ぎ準備をする。
「アーリー様がやらなくても私がやりま……」
クレナがすぐに立ち上がろうとするのをアーリーが手で制して「いいから座ってなさい」と言いながらテーブルにカップを置いた。
「さて、まずは結果から話しましょうか」
アーリーは微笑みながらクレナの方を向き結果を伝える。
「試験は合格よ。良く出来たわね。今回の試験であなたの受付嬢資格が2級になったわ。
これで第2窓口を受け持つ権利を得た訳だけど、今は空きがないからこのまま暫くは第3受付を任せる事になるわ。
今は人材不足でうちのギルドは受付が3つしかないけど本来ならばこの街の規模だとまだ多くてもいいくらいなのよね。
だから来年くらいには窓口を増やすべく人材育成にも力を入れていくからその時はあなたにも協力して貰うから、その時は宜しく頼むわね」
「はっ はい!」
クレナは合格と聞いてホッとしていた矢先に次々とこれからの事を伝えられて頭がついていって無かったので返事をするだけで精一杯だった。
「じゃあ、明日からはリリスさんは指導担当から外れるけどやる事は同じなのでしっかりと仕事をこなすように頼むわよ」
アーリーはそうクレナに伝えると今度はリリスの方を向いて話し始めた。
「まずは、依頼を達成してくれた事についてお礼を言うわ。 ありがとう。
自らの知識だけでなく、指導・育成の分野でも優秀な成果を出せるあなたがギルドに所属していない事が残念でならないわ。
うちでやるつもりならば直ぐに受付嬢の統括責任者にしてあげるけどやってみる気はない?」
「全くありません」
アーリーの問にリリスは笑顔で即否定する。
「そう、残念ね。
で、これが契約にあった報酬になるわ。
金額的には受付嬢が通常業務で受け取る金額の倍にしてあるわ。
それと、これがギルドを利用する際に優先的に情報を受け取る事が出来る証明証になるわ。
もちろんこの証明証の効力はこの街のギルドのみになるけど私の裁量で出来るのはここまでだからそれは了承して貰わないと仕方ないわね」
アーリーはそれらの報酬をリリスに渡すと「また、何かあれば頼むわね」と笑みを浮かべながら見送ってくれた。
* * *
「本当にお疲れ様だったね」
宿に帰ってきたリリスに僕は労いの言葉をかける。
「本当に疲れたわ。
もう一人やってくれと頼まれても速攻で断るつもりだったけど流石にそれは言わなかったわね」
話しながら準備した紅茶を片手に今まで話していなかった苦労話を次々と暴露するリリスに僕は優しく頭を撫でると「実は大事な話があるんだ」と言いながらあるものを彼女の前に差し出した。
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