第94話【リリスの臨時受付嬢講義②】
「アーリー様!? どうしてここに?」
叩かれた女性は頭を擦りながらもアーリーが怒った顔をしながら仁王立ちをしている事に危機感を覚え、その場にビシッと直立不動で固まっていた。
「どうして? じゃないわよ。
昨日の終礼であなたの研修を引き受けてくれる人が来ると話した筈だけど?」
「えっ? 確かにそんな事を聞いたような気もしますけど、もっと歳を重ねたベテラン講師が来ると思ってたんですけど……」
女性はアーリーに対して話が違うと訴える。
――パシン。
さらに追い打ちでアーリーのハリセン(ではないが)が彼女の頭頂部を
「あなた、本当に受付嬢講習の3級に合格したのよね?
その内容に受付嬢としての言動から振る舞いまであった筈だけど……。
まさか、替え玉受験を……」
アーリーが疑惑の目で彼女を見るので慌てて手を振りながら言い訳をする。
「そんな事ある訳ないですよ。
大体、面接はアーリー様がやってくださったじゃないですか」
「ええ、確かに面接はやった覚えがあるわ。
でも、講義に関しては私は見てないからあなたがきちんとテストを受けて合格を貰ったかどうかは知らないわよ」
「そ、そんなぁ」
ふたりがやり合っているのを冷ややかな目で見ていたリリスはため息をついてアーリーに言った。
「すみません。
呼ばれたから来たのですけど、まさかその娘が受付嬢候補なのですか?」
リリスは今の受け答えで彼女が『ポンコツ』である事は確信していたが、出来るだけ早く依頼をこなして帰りたかったので何かの間違いである事を祈りながらアーリーに聞いた。
「……そのまさかよ」
アーリーもため息をつきながら頷いた。
「ちょっと人材不足でね。
受付嬢規定を一応でもクリアしてるのがこの娘だけなの。
結局が斡旋ギルドの受付嬢規定がおかしいのがいけないのだけどね」
「あー。まあ、それは私も同意しますけど……」
【斡旋ギルド受付嬢規定】
斡旋ギルドの受付嬢に抜擢する人材の基準を明記したもので受付に立つ資格のようなものである。
・独身の女性である事
・年齢は25歳以下である事
・受付嬢講習の3級以上を取得している事
・物事に対してきちんとした受け答えが出来る事
・読み書き計算に加えて書類整理能力が一定水準以上である事
・容姿が一定水準を越えている事
「今どきの優秀な娘って結婚してたり年齢制限で引っかかる娘も多くて基準から外れてしまうのよね。
だいたい、この規定もギルドが出来てすぐの内容をそのまま使ってるだけで今のやり方には合わない筈なのよ」
アーリーが規定に関して不満を言うが、今その事を言ってもリリスがこのポンコツ娘の面倒を見なくてはいけない事実は変わる筈も無く、リリスはげんなりとした表情で肩を落としていた。
「とりあえず名前を教えて頂戴」
こめかみを押さえながらリリスが名前を尋ねる。
「えっと、私の名前ですよね。
クレナと言います」
「クレナさんね。
私はアーリーギルドマスターから依頼を受けてあなたを鍛え直すために来たリリスよ。
本来ならば私が来る必要がない筈なのに来なければいけなくなった意味をよく考えて私の指導を受けてください」
「はっ はい!」
クレナは直ぐに承認の返事をする。
「じゃ じゃあ後はお願いね。
今日の指導が終わったら執務室に来て頂戴。
色々な書類と報酬についての契約書を渡すから……」
「分かりました。この娘の指導は全て私に任せて貰えるのですよね?」
リリスがアーリーに最終確認をする。
「少なくとも第三受付を任せられるようにならないと話にならないから多少は厳しく指導してもらわないと間に合わないでしょうし好きにやって良いわよ。
万が一倒れたらナオキさんを呼んでくればすぐに解決出来る事でしょうし」
アーリーはさらりととんでもない事を言うがリリスも「そうですね」と普通に了承した。
「なな……何が始まるんですか?」
クレナがびくびくしながらふたりに聞くと「研修よ研修」とにこやかに返事があった。
「基本的には時間内は第三窓口業務をこなしながらの研修で受付を閉めてから本格的な研修をするしか無いわよね。
とりあえず必要な書類関係を見せてください。
その後はふたりで窓口業務をするので常連さんとかの情報はその都度教えてください」
「はっ はい。分かりました」
その後、リリスは業務開始時間まで詰め込みで資料を読み漁っていった。
* * *
「いらっしゃいませ、斡旋ギルドへようこそ。
今日はどのようなご要件でしょうか?」
初日は業務開始からリリスが見本を見せるためにメインで利用者の対応にあたった。
「あれ? クレナちゃんはどうしたの?」
常連の男性からクレナの事を尋ねられる。
「クレナの方は只今研修中でして、期間限定ではありますが私がお手伝いに入らせて頂いております。
彼女の研修終了までの短い期間ではありますが宜しくお願いしますね」
リリスは持ち前の営業スマイルを振りまきながらギルドの利用者達に挨拶をしていく。
「いやぁ君、美人だね。すぐにのこのギルドの一番窓口を任せて貰えるんじゃないかい?」
リリスの事を新人受付嬢と思っている利用者にはそんな事を言う人もいたがリリスは嫌な顔を全く見せずに淡々と期間限定の助っ人だと説明してから仕事斡旋の説明をこなしていく。
窓口の奥テーブルではリリスが受け付けた仕事の書類整理を休む暇もないペースで泣きながらこなすクレナの姿があった。
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