第85話【ゼアルの思惑とロギスの苦悩】

「まず、ゼアルさんは出世欲が強そうに感じます。

 先程ロギスさんが言っていた通り、僕を領都の薬師と思って嘘をついてでも自分の部下へと引き入れようとしたからです。

 次に、彼は僕達が彼のお店に偶然行った際にリリスを口説いてましたのであなたの言う通り可愛い娘を見つけるとナンパを繰り返していたのでしょう。

 そんな彼もナナリーさんとはもちろん面識があるでしょうから彼女の立場も当然知っていますよね?」


 僕がそこまで言うとロギスはまたため息をついて肯定した。


「ふう。そこまで推測されたら馬鹿でも分かるわな。

 多分、あいつはナナリーさんを利用して斡旋ギルドにも太いパイプを作ろうとしてるんだろう。

 そうすれば次の薬師ギルドのギルドマスターは彼になるからな」


「ですよね。

 まあ、僕はあなたの言う通り外部の人間ですからバグーダこの町の薬師ギルドマスターがどなたでも協力さえ得られれば問題無いのですが、ナナリーさんは大切な知り合いですからね、彼女が悲しむ事になるならば何か手を出さざるを得ないかと思ってます」


 僕はそう言うと飲み物を手に取った。


「手を出すと言っても彼女に告げ口をするくらいしか方法は無いだろう?

 だが、そんな事をすればゼアルが逆恨みをしてあんたの邪魔をしてくるかもしれないぜ」


「ええ、そうですね。

 ですからロギスさんにも少しばかり協力をして貰いたいのですよ」


「協力? ギルド内での揉め事に加担するのは無理だぜ」


「はい。今回の件はゼアルさんがナナリーさんの気を引くために化粧をさせようとしているのですが、ナナリーさん本人はあまり乗り気ではないのです。

 ですのでナナリーさんに『まだ若くて肌の状態も良いので化粧は必要ないです』と分からせれば良いのですよ」


「それで?」


「で、それを僕が言ってもあまり効果がないので、ロギスさんから言ってもらえたら助かるんですけど……」


「はっ!? 俺が? 何故だ?」


「いえ、ロギスさんは失礼ですが少々強面なのですけど薬師ギルドの調薬部門を束ねている真面目な方ですからあなたがナナリーさんに『そのままで十分可愛いんだし、まだ化粧は早いんじゃないか?』とか言って貰えれば彼女も『そうかな? やっぱりまだ化粧は必要ないわよね』となるのではないかと思いますが、どうですかね?」


「どうですかね? じゃないぞ!

 誰がそんな恥ずかしい事をやるんだよ!」


 ロギスは僕の案を聞いて即座に反対する。


「そうですか……。

 この案が一番穏便なやり方だったのですが、仕方ありませんので別の方法にします」


「ああ、そうしてくれ」


 ロギスがそう言うので僕は側にいるリリスを指して彼に言った。


「リリスの肌が綺麗なのは見てわかりますよね?

 その理由に僕の治癒魔法が関係しているのですがそれをナナリーさんに暫く受けて貰うようにお願いしてみようと思ってます。

 それで効果があれば僕からも『これで化粧は必要ないね』と言えますからね。

 その時にでもさり気なくリリスがナンパされてたとかを伝えても良いかもしれないね」


 僕の言葉を聞いていたロギスは眉をぴくりと動かして僕に聞いた。


「その治療はやはり……その……他の患者と同じ方法を取るのか?」


 ロギスがなんだか言いにくそうな雰囲気を出してこちらを伺う。


「治療方法? もちろん同じですよ。

 情けない事に僕はこのやり方しか出来ないのでせめてしっかりと対応させて貰おうと思ってますよ」


 僕がそう言うとロギスは少しばかり考え込んでから言った。


「分かった。

 かなり抵抗感はあるが最初の案をしてやろう。

 但し、それを俺が言える状況は何とかして作ってくれないと今度は俺が彼女をナンパしてるみたいになるからな」


「やる気になってくれましたか?

 ありがとうございます。

 シチュエーションについてはこちらで調整しますので心構えだけしておいてくだされば良いかと思いますよ」


「分かったよ。

 ただ、一つ言っておくが今回の件はあくまでナナリーさんがゼアルのナンパに迷惑をしていると言う前提で話しているので、もしそうでは無く彼女が本当にゼアルと付き合いたいと思っているならば俺たちにそれを邪魔する権利は無いからな」


「もちろんですよ。そんな無粋な真似はしませんよ」


 僕はロギスにそう言うと「また、連絡をしますので宜しくお願いします」と伝えてその場は別れた。


「あんなやり方で上手くいくかな?」


 宿への帰り道でリリスが話しかけてきたので僕は「どうだろうね。でも、なんとなくだけど変わりそうな気はしてるよ」と答えた。


「そうね。変わってくれないとナオキが彼女に対して毎日治癒魔法をかけないといけなくなるからね。

 そんな事になったら絶対にまたナオキに言い寄るようになるでしょうからそれは私が阻止させて貰いますからね」


 リリスはそう言いながら自らの胸に手をあてて日課の行為を思い浮かべながら頬を赤くした。

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