第24話【診療所の開業と初めての患者】

 役所に申請を済ませてから3日後には許可もおり、同時に改装工事も完了していた。


 見た目には普通の家屋に看板を取り付けただけの外観にどれだけの人が診療所だと認識してくれるかが不安だった。


「とりあえず開業にこぎつけたけど本当に患者さんは来てくれるのだろうか……」


 一抹の不安がよぎるが、今更じたばたしたところでどうしようも無いのでリリスの仕掛けた宣伝に期待をする事にした。


「ここが新しく開業した診療所なのですか?」


 患者が来るまでやる事の無かった僕は診療所の前を掃除していたところへ声がかかった。


「あっ はい。何かご用ですか?」


 診療所に来る人に『何かご用ですか?』と聞いてしまい僕は思わず顔を赤くする。


「怪我の治療を頼みたいのですが、斡旋ギルドの紹介状を持ってくれば無料で診てくれると言うのは本当なのでしょうか?」


 実はリリスと相談して、まずは知名度の向上を目的に斡旋ギルドに依頼して患者の無料診察を行うと告知して貰っていたのだ。


 斡旋ギルドを辞めたリリスだが、依頼料を払って利用するのは犯罪者でない限り誰でも受けるのがギルドの方針なので特に問題なく受け付けて貰えたらしい。


「無料診察の方ですね。

 ようこそナオキのナオール診療所へ。

 診察の前に聞き取りと注意事項……お願いがありますので待合室へお入りください」


 後ろからリリスがサポートしてくれる。

 もともと受付嬢をしていたのでお客(患者)の扱いは慣れたものだった。


「私が聞き取りをしますので、ナオキさんは診察室で待機をお願いします。

 治療方法は事前に説明をしておきますが、もしかすると直前で拒否される方や治療中に驚いて手が出る方も居るかもしれませんが落ち着いて対処したいと思いますので冷静にお願いしますね」


 僕が患者に叩かれるのが前提のようなフラグを立ててから患者に聞き取りをするため待合室にリリスが向かった。


「――という流れになります。宜しいですか?

 宜しければこちらの書類にサインをお願いします」


 リリスか提示しているのは『治療の同意書』だ。

 いくら領主様のお墨付きを貰っているとはいえ、患者に触る事を同意して貰っておかないと必ずトラブルになるのは目に見えていたからだ。


「ありがとうございます。では、これから治療に入りますので診察室へどうぞ」


 治療に来た女性をリリスが診察室へと案内する。


「こんにちは。怪我の治療との事ですがどういった怪我か教えてください」


 先程リリスが聞き取りをしているのでそれを聞けばいいのだが、初めての患者を前に僕は事前打ち合わせの内容を忘れ患者に直接聞いてしまっていた。


「ナオキさん。治療の内容は私が伺っていますのでこちらの書類を見てくださいね」


 リリスが慌てて書類を僕に渡してくる。


「ああ、ありがとう」


 僕は内心焦りながらもそれを確認し、自己申請の内容と患者の容体に間違いが無いか鑑定スキャンをした。


右膝半月板みぎひざはんげつばんの損傷で間違いないと思います。

 では、治療をしますので背筋を伸ばして胸をこちらに向けてください」


 僕の言葉に予想通りの言葉が返ってくる。


「あの……。ひざの治療になぜ胸が関係あるんでしょうか?」


 彼女は警戒心を強めてそれに伴い語気も強くなっていく。


「それにつきましては先程説明させて頂いた筈ですが、まだ納得されていなかったのでしょうか?」


 リリスが横から彼女の説得を試みた。


「確かに説明は受けましたけど……。

 でもどう考えてもやっぱり納得がいかないです」


「まあ、そうでしょうね。

 せめて僕が女性だったら良かったのでしょうけどそれは無理な相談ですし、どうしても納得いかないのであれば無理強いはしませんのでこのままお帰りになられても結構です。

 但し、ある事ない事を吹聴ふいちょうすることだけは控えて貰いますよ。

 こちらは領主様のお墨付きを頂いている診療所ですので風評被害を拡散されては領主様に申し開きが出来ませんので……」


 領主様の名前を出されては迂闊な事を吹聴してまわる事はしないだろう。


「………分かりました。どうぞ治療をお願いします」


 領主様の名前効果が効いたのか、彼女は素直に治療を受ける決心をしてくれた。


「では、失礼します。怪我の具合からそれ程長くはかからないと思いますのでご了承ください」


 僕は一言断ってから彼女の下胸、心臓の位置に手をあてがった。


 ふかっ。


 服の上からでも十分に弾力が分かる程の大きさを持つ彼女は少し俯き加減で耳を赤くして恥ずかしさを耐えていた。


完全治癒ヒール


 僕は魔力溜まりを確認すると早々に治癒魔法をかけて魔力の注入を始める。


「あっ 何かが私の中に入ってくる!?」


 彼女は魔力注入の感覚に恥ずかしさと緊張で強張らせていた筋肉が解けていくのを感じていた。


「これ、気持ちいいかも……」


 すっかり緊張が解けた彼女は頬を赤らめながら『ほぅ』と熱い息を吐いたところで治療が終わった。


「以上で治療は終わりましたが怪我の具合はどうですか?」


 鑑定スキャン上では完治していたが念のため本人に確認する。


「えっ もう終わりですか?

 もう少し続けてもらっても良かった……いえ、なんでもありません。

 えっと、怪我……そう怪我は……痛くないです。

 凄い! 本当に治ってる!」


 驚いた彼女は治った足で飛び跳ねてみてさらに驚いた。


「――本当にありがとうございます。

 でも、本当に治療費は要らないのですか?」


「ええ、大丈夫ですよ。お気をつけてお帰りくださいね」


 リリスの言葉にお礼を言って帰ろうとする彼女に「怪我や病気で困っている女性がいたら教えてあげてね」とリリスはちゃっかりと宣伝をしていた。

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