第3話【町長は思ったよりも話せる人だった】

「ここがカルカルの町だよ。この辺りでは領都を除けば一番大きい町で大抵の物は揃っているんだ。

 町には外壁があるから東西の2箇所にある門からでなければ入る事も出来ないし、不審者は当然門兵に止められる事になる。

 今回は私達の馬車に同乗しているので通して貰えるが、身分証を持たない旅人は多くの保証金を払わないと通して貰えないから注意してくれ」


「身分証はどこで発行してもらえるんですか?」


「一番簡単なのはギルドに所属して発行してもらう事だね。

 他の方法は……無くはないけどおすすめは出来ないかな」


「そうですか……。ところでこの馬車は何処に向かってるんですか?」


「この馬車の行き先かい? それは町長様のお屋敷だよ。

 あの地で保護した者は必ず町長様のお屋敷に案内することが町に住む住人の間では義務になっているからね」


「えっ? いきなり町長さんと面会なんて、突然尋ねて行っても大丈夫なものなんですか?」


「ああ、先触れはしてあるから大丈夫だし、気さくな人だからそんなに気負わなくても心配ないぞ。そら、お屋敷が見えてきた」


 僕を乗せた馬車はひときわ大きな屋敷の前に停車すると門番をしている男がすぐに駆けつけてきた。


「例の者をお連れしたので町長様に面会をお願いしたい」


 御者の男性が門番に告げると門番の合図で案内担当であろう女性が馬車の前にて待機をする。


「では、あなたはその女性について行ってください。

 わたくしは御主人様達をお連れしてから説明のために後ほどこちらに出向きますので……」


 御者の男性はそう告げると僕を残して馬車を発車させた。


「それでは、こちらにお入りください」


 僕は案内の女性が示す部屋に入ると促されるままにソファに座った。


「こちらでお待ちください」


 僕がソファに座ると準備されていた飲み物を前のテーブルに置くと深々とお辞儀をしてからドアの側に控えた。


(町長か……。フレンドリーとは言っていたけど、どんな人物なんだろうか……)


 僕が出された飲み物に口をつけた時に入口のドアが開いた。


「お待たせしましたかな?」


 そこには恰幅の良い頭の薄い中年……ではなくビシッとしたフォーマル服に身を包んだ壮年の男性が立っていた。


「この町で町長を任されているバルドだ。

 この度は急な呼び出しに応えてくれてありがとう。

 いくつか質問をしたいと思うが気軽に答えてくれればいい」


 バルドはそう言うと僕の前のソファに座った。


「まず、名前を聞いてもいいかい?」


「ナオキといいます」


「ナオキか良い名だ。では神木の地で何をしていたんだ?」


「何をしてたか?と聞かれても、気がついたらあの樹の下に寝ていたので自分でもよく分からないです」


「神木の地に現れる前に神様と会ったか?」


「神様かどうかは分からないけれど奇麗な女性と話をしました。その後、あそこに寝ていました」


 僕は普通ならば突拍子もない話に鼻で笑われるだけだと思っていたが、バルドは神妙な顔つきで何かを考えていたが「やはりか……」と呟いた後、話を続けた。


「今の話で君は神の選定にあったであろう事が分かった。非常に珍しい事ではあるが過去にも数例の事案があり、その者達は皆『神の祝福』を授かっていた」


「神の祝福ですか?」


「おそらく君にも何かしらの祝福を授かっていると思うが、何か心当たりは無いか?」


「それが祝福にあたるかは分かりませんが、その時の女性から『治癒の魔法』を貰いました」


 僕が隠しても仕方ないと正直に答えるとバルドは首を傾げて何かを考えていた。


「その『治癒の魔法』とはどういったものなんだろうか?

 この世界、いや少なくともこの国にはそういった名前の魔法を使う者は居ないはずだ」


(治癒魔法を知らない? この世界では魔法は一般的ではないのだろうか?)


「治癒魔法とはその名のとおり、怪我や病気を魔法で治療する手法の事ですけど、そんなに一般的ではないのてすか?」


「ああ、怪我や病気の治療は薬師に調薬してもらった薬を使うのが一般的だ。

 もちろん万能薬などある訳ないので効果は限定的だがな。

 もしかして、その『治癒魔法』というのは高い治療効果があるのかい?」


「おそらくですが、今使われている薬より効果は高いのではないかと思います」


 実際は高いどころではないのだが薬の効果がどれくらいか分からない段階で大風呂敷を広げる訳にはいかなかった。


「ほう、それは実際にこの目で見てみたいものだな。

 ふむ、屋敷に誰か怪我をしている者が居なかったかな?」


「侍女のミリーが昨日より体調を崩して休んでおりますが……」


 後ろに控えていた女性がバルドの言葉に応える。


「ミリーは薬を飲んで休んでいたのでは無かったか?」


「はい。ですが回復の兆しが見られませんので……」


「ミリーは君の妹だったな。心配なのは当然の事か。

 いや、すまないナオキ殿。ミリーの治療をしては貰えないか?もちろん報酬は出そう」


「分かりました。では患者の所へ案内してください。できる限りの事はすると約束します」


 僕はそう言ってソファから立ち上がった。

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