第8話 カントリーロード-8
一日の授業が終わって絹代は鉄子を案内して回った。古木と西野も一緒について来てくれた。教室のある本館から、バレーボールコートの横を通り、理科室や図書館のある北校舎をまわり、体育館を通ってテニスコートから野球部グラウンドへ抜け、音楽室の前を通ってプールから柔道場、南門から花壇の横を通って校舎に戻ってきた。そこで、父の直之に会った。
「何だ、校内の案内をしてくれたのか」
「うん、ひと通り」
「遅くまでありがとうよ。どうだ、テッちゃん。あんまり大きな学校じゃないから、面白くないだろう」
「んにゃ、グラウンドが広いんでびっくらしただ。おらの村で、あんただ広い平地なんてないんだ。せいぜいこの校庭の半分くらいかな」
「全部で十三人だって?」
「ん、小中あわせて」
「中学生は何人なの」
西野の問いに鉄子は手で四と示した。
「三年が一人、二年がおら入れて二人、一年は一人」
「でもテッちゃんがいなくなって、減っちゃったね」
「ん、仕方なんねえ。おらが小学校入ったときは、同級生は四人いただ。んだども、家の都合で出て行っちまって、結局二人になっちまった。おらも出ていくことになっただども」
「淋しいわね」
「ん、でも、おら中学卒業したら郷里に帰るだ。そこで働く」
「高校行かないの?」
西野と古木が驚いたように訊いた。絹代は、自分と同じだと思いながら、黙って様子を見ていた。
「んだ。義務教育済んだら、もういいんだ。高橋先生も面倒見てやってもいいって、言ってくれたんだども、爺ちゃんだし、おらが面倒見てやれるように、義務教育終わったら帰るだ」
西野と古木の二人は感心したようではあったが、それでも不思議そうな顔をしていた。直之は、そんな二人を見ながら、微笑みながら言った。
「今日は、もう帰るのか?」
「うん。パパは?」
「まだ、採点があるんだ」
「じゃあ、先に帰るね」
「ああ。じゃあ、テッちゃん、絹代と一緒に帰ってくれ。迷子にならないように」
「うん。さいなら」
直之は職員室の方へ歩いて行った。
「キヌちゃんの父さんは、何年生の担当だ?」
「三年生の国語」
「そっか、残念だな、父ちゃんに教えてもらえなくて」
「そんなのやだよ。学校でも家でも怒られるなんて」
「そんただもんか?」
同意を求めた西野と古木は頷いて応えた。鉄子は不思議そうな顔をして言った。
「そんなもんか?んだども、その方が得な気がしんねえか?」
三人が首を振るのを見て、鉄子は圧倒されて、ハハハと作り笑いをするだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます