グリーンスクール - カントリーロード
辻澤 あきら
第1話 カントリーロード-1
カントリーロード
某月某日――晴時々曇。風向、北西。
ただいまと小さく言うと、絹代はさっさと廊下をすり抜け自分の部屋に入った。物音に気づいた母親が玄関に出てみるとそこにはもう絹代の姿はなく、振り返って見た絹代の部屋では物音もしなかった。間口には絹代のズックが散らばったまま放り出されている。またか、と思いながらそれをそっと整えると、夕食の支度を続けるため台所へ戻った。
絹代はベッドにうつ向けに寝ころんだまま、起き上がろうとしなかった。
―――まただ。
絹代は今日もいじめられた。いや、それは絹代にとっては嫌なことではあったが、まわりの女の子たちからはただのコミュニケーションでしかなかった。絹代が少し他人と違うものを持っていたり、人と違うことをすると、わざわざそれを取り立てて話題にするのだった。絹代がおとなしく反論も同調もできないまま、おろおろしているのを、まわりの女の子たちは喜ぶのだった。
今日は靴下だった。たまたま白の靴下がきれていたので、黒の靴下を履いて学校に行っただけだった。ところが、それをめざとく見つけた朝丘かおりが、いきなり大声で声を掛けてきた。
「あらぁ、絹ちゃん、珍しいィ。黒のソックスなんて、どうしたの?」
絹代が履くことは初めてだったが、クラスの女の子は普段でも半数が紺か黒だった。それを知っていて、絹代の反応を見たいがためにわざと朝丘は大げさに近づいてきたのだった。
「へえぇ、似合うじゃない。かわいいよ。こんなのも、似合うなんて、いいな。ね、みんな、来て来て」
その瞬間から絹代はおろおろしたまま女の子たちのさらし者になってしまうのだった。決して、いじめようという意思がない訳でもないようだった。やはり、みんな絹代のおろおろする姿を見て楽しんでいる、と絹代には思えた。
―――今日は、朝から、最悪だった。
絹代は寝返りをうって仰向けになり、足を高々と上げた。黒いソックスは、確かに、似合ってると思う。だけど、今まで履く勇気がなかった。履けないでいたから、今日こんなに話題にされたんだと思うと、もう一度明日履いて行ってみようかとも思ったが、それならそれで何か言われそうだった。
―――何をしても、ダメなんだ。
何をしてもつるし上げられそうだった。そうしたいようだった。悔しいという気持ちより、ただ、悲しくて涙が溢れて来た。
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