カウントダウンの誘い

「なぁ、四条」

「ん?」


二学期の最終日。

終業式も終わった帰り道。

俺は藤沢と並んで歩いていた。

俺たちの後ろには、夏川と悠木が、同じように並んで歩いている。

俺は、カテキョの悠木先生のお陰で、結構な成績。補講の心配は、一切無し。

藤沢は塾に通い始めたとかで、俺に同じく、補講の心配はなし。

藤沢曰く、『瑠偉に教えてもらおうと思ってたんだけど、できの悪い生徒は一人で十分だって、断られた』とのこと。

…できの悪い生徒って、俺かよ、まったく。

で。

夏川は夏川なりに、休み時間に悠木を捕まえては、分からないところを聞いて、頑張っていたらしい。

悠木はもう、言わずもがな。

ってわけで。

俺たち四人は全員、補講を免れていた。


「年末年始、どうするんだ?親父さんとお袋さんのとこ、帰るのか?」

「あー、まだ決めてねえ」


かあちゃんからは、帰ってこいと言われていた。

でも、30日にバイト入ってるから、帰るとしても、大晦日だ。

帰ったら帰ったで、親父とかあちゃんと一緒にお節食って、テレビ見ながらグダグダできるし。ゆっくりできるなぁ、とは思う。

ただ。

3日にバイト入ってるから、2日には戻ってこないといけない。

そんなシフトにした俺が悪いんだけど、二泊三日で慌ただしく帰るのもな、と思うと、どうにも決断できないでいた。


本当は、理由はそれだけではない。


俺がいなくても、悠木には鍵を預けてあるから、悠木の心配はしなくていいけど。

家にいれば、悠木が来るかもしれない。

悠木に会えるかもしれない。

なんなら、勉強にかこつけて、呼び出せるかもしれない。

そんな思いがあるのも、事実だ。


…会えたところで、何があるわけでも無いんだけどな。

悠木と俺との間には。


「じゃあ、さ」


そう言う藤沢の顔が、何やら嬉しそうに綻ぶ。

藤沢がそんな顔をする時は、夏川絡みに決まってる。

今度はいったい、何を言い出すんだ?


身構えた俺に、藤沢は言った。


「一緒に年末カウントダウン、しないか?」

「え?」

「まだ決めてないなら、一緒に年越ししようぜ」


藤沢は、少年のように目をキラキラさせている。


え?

言う相手間違ってないか?

俺、夏川じゃねぇぞ?


「俺たち、来年の年末はそれどころじゃないだろ?だから、さ」


今度は、なにやら照れ臭そうに笑う藤沢。

なにこれ。

カップルの会話かよ。


「藤沢さぁ」

「なんだ?」

「お前、俺のこと好きだろ」

「ああ」

「え?」

「ん?」


からかったつもりが真顔で返され、俺はマジマジと藤沢を見つめた。

だが、藤沢も【なにか?】とでも言わんばかりに、俺を見つめ返す。


「言っただろ、俺、四条も夏川も瑠偉もみんな好きだし、大事だって」


「あ、あぁ」


あー、びっくりした。


と思っていたのは俺だけではなかったらしい。

後ろから、安堵のため息が2つ、聞こえてきたから。


ピュア過ぎるぞ、藤沢。

無自覚も、大概にしろよ?


とは言え。

藤沢の言うとおり、来年の年末年始なんて、カウントダウンなんかしてる場合じゃないだろうな、俺達受験生は。

やるなら、今年しかない。


「やるか、年末カウントダウン」


うん!と、藤沢が嬉しそうに笑う後ろで。

夏川と悠木が、もの言いたげな顔で俺を見ていた。

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