悠木の失踪②
「悪い」
そう一言俺に断りを入れてから、藤沢はスマホを見て、一瞬驚いた顔をしていた。
俺はと言えば、藤沢って律儀な奴だな、なんて感心をしながら、少し離れた場所で立ち止まって、ぼんやりと藤沢の姿を眺めていた。
「えっ?どういう事ですかっ?!」
突然、藤沢の声が大きくなった。
そして、電話をしている藤沢の顔が、どんどん険しくなっていく。
何か不測の事態でも起きたのだろうか。
もしかしたら、ラクロス部・・・・じゃなくて、なんだっけ?あぁ、ラグビーだっけ?ラグビー部でなんかあったのか?
今日部活動を休んだ事で、先輩から何か理不尽な事でも言われてしまったのだろうか。
それならそれで、藤沢はやっぱり今日は、ラグビー部の活動に戻った方がいい。
話を聞いてくれようとした藤沢の気持ちだけで、ほんの少しだけ気持ちが楽になっていた俺に、電話を終えた藤沢が言った。
俺は気持ちよく、藤沢をラグビー部の部活動へ戻すつもりでいた。
「悪い、四条」
「うん、いいよ」
分かってる。
皆まで言うな。
いいから戻れ。ラグビー部に。
そう思いを込めて言ったのに。
「え?電話、聞こえてた?」
藤沢は、驚いたような顔で言った。
「いや、聞こえてないけど、部活に戻るんだろ?俺ならもう大丈夫だ。早くもど・・・・」
「は?違うよ、瑠偉だよ!瑠偉が、いなくなったんだっ!」
「・・・・は?」
焦った顔の藤沢とは対照的に、俺はきっとポカンとした顔をしていたと思う。
だって。
なんでここで突然、このタイミングで、悠木の名前が出て来るんだよ?
今日まさに、俺が藤沢に聞いてもらおうと思っていた奴の名前が。
それに、いなくなったって、なんだよそれ?
「四条っ、しっかりしろっ!瑠偉が、いなくなったんだぞ!」
あまりにポカンとし続けている俺にしびれを切らしたのか、藤沢が両手で俺の肩を掴んで、前後に揺さぶる。
いや、しっかりしろも何も。
悠木がいなくなったって、なんなんだよ一体。
揺さぶられ続けられる俺の耳に、俺のスマホの着信音が、微かに聞こえてきた。
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