第10話 我が家へ―①
澄んだ空気が、晴れ渡る空の青を、より一層深く濃く感じさせる。
そのまま肺に飛び込んでくる冷気は硬く、体を芯から凍えさせてゆく。
「ヘックシッ!・・・・寒い。」
冬だ・・・・真冬だ・・・。
鼻をすすり吐く息白く、Tシャツに短パン姿の元気印の子供のようないでたちの一念。
さぶいぼが立つ腕を摩りながら、目の前の我が家を老紳士と共に見上げている。
「あれ、お前だよな?」
「そのようですね。」
放っておくと垂れてくる鼻水を啜り、見上げる視線の先に見えるのは二階で窓拭きをするこの世界の自分。
「あそこは寝室か?」
「はい。」
「一生懸命、拭いているな。」
「そのようですね。」
やがて小刻みに震えだす一念。
こちらには目もくれず懸命に窓を拭く自分に、ここもまたハズレだと知りしゅんと肩を落とす。
「ここも違うみてぇだな。」
「そのようです。」
ここに来てから同じようなことしか口にしない一念に、老紳士は腹が立ったのかくるりと振り返り物申した。
「なんだよお前、さっきからおんなじことばっか言いやがって!・・・・。」
だがしかし、振り返ったさきの一念の顔色がメチャクチャ悪いことに気付き、紳士は驚愕する。
「・・・・・っつーか、お前!メチャクチャ顔色悪いけど!」
一念は小刻みに震え、唇までもが紫色に変色していた。
「寒いからですよ。そりゃあそうでしょ。Tシャツですからね。」
腕を摩り、震えるその手でTシャツの袖をつまみあげ、老紳士に見せつける一念。
紳士はそんな一念に驚きを隠せずにいた。
「え⁈ちょっとまって!お前さん、寒いのか⁈」
なにを言っているんだろうか?このじいさんは?・・・。
一念は腹が立った。
状況見れば、わかるだろうに!と。
「えぇ!寒いですよ!見てください!こっちは真冬にTシャツですから!あなたの着ているお高そうなスーツと違って、こっちは夏に快適な薄っぺらい布切れ一枚ですからね‼」と、一念は声を震わせ紳士に突っかかった。
「そっか、お前さん寒いのか・・・そっか、そっか。そりゃ驚きだわー・・・。」
なにが驚きなのか一念には理解できず、寒さに耐えてただ目の前の紳士を恨めしそうに見つめるだけ。
「だが喜べ。お前が次に行くべきとこが、だいたい見当ついた!」
目の前で震える一念を見て、薄っすらと含み笑いを浮かべながら、老紳士は自らの推測を一念に告げる。
「次行くべきとこは、フフフッ・・ここから半年先だ!・フフフフッ。」
「・・・・・・・・・。」
一念は老紳士の言う次に目指す場所よりも、その微かな含み笑いが気にかかった。
ちっ!こいつ、笑ってやがる!
しかしそこは、敢えて触れずに一念は思った。
この人は、なぜ未来だと言い切れるんだろうか?
目の前で、この世界の僕が窓を拭いているからだろうか?
もしかしたら目の前の僕は、もうこの奇怪な体験を終えた後の僕なのかもしれないのに・・・。
しかし、寒さがすでに限界を超えている一念には、老紳士のこの提案に賛同するしかなかった。
この住み慣れた街にいて、極寒の状況から一刻も早く立ち去りたい一念。
小刻みにこれでもかというほどに首を細かく縦に振り、老紳士にこの場から早くどこかへ連れ去ってくれ!
出来れば温かい南国の地へと連れ去ってくれ!と、目で訴えかける。
「お、おう!わかった!わかった!お前さん、寒いんだったな。まずは暖かいとこ行きたいんだな!わかった!わかったよ!」
そう言って震える一念の体を摩り、気持ちをすぐに察してくれた老紳士。
分かっているなら、早くそうしてあげてください。
一念さん、時空の旅先で風邪ひくなんてシャレにならないです。
よしよしよしと頷いて、老紳士は急いでゲートを呼出し一連の儀式をお約束通り執り行う。
「オープン!ザ!セサミ!」
一念は、四度目の時の彼方へと旅立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます