―68― もっともっと大きな結晶
「これで、全部揃ったー!」
家に帰った僕はウキウキの気分だった。
「うざいほどにテンションが高いですね」
苦言を呈したのは、隣にいる名称未定だ。
実際、僕は今、最高潮にテンションが高い。
なんせ、これでやっと125個目の〈結晶のかけら〉を集めることに成功したからだ。
あれからアルセーナくんたちのパーティーと報酬の取り分をどうするか話し合った。
アルセーナくん側は、僕に命を助けられたからということで、ダンジョンで手に入れた素材を全部、僕に差し出そうとしたけど、それは丁重にお断りした。
ただし、〈結晶のかけら〉に関しては絶対に欲しいと主張させてもらった。
こんな、なにに使えるかよくわからない物を欲しがるなんて変だ、と言われるだけで、特に揉めることもなく〈結晶のかけら〉を手に入れることができた。
あとは、
僕としては、〈結晶のかけら〉さえ手に入りさえすれば十分だったけど、向こうもモンスターを倒した者が素材をもらうべきだ、という主張を譲らなかったので、結果ありがたくちょうだいすることにした。まぁ、全部換金所に行って、換金したので、手元にはもうないのだけど。
そんなことは置いといて、今は〈結晶のかけら〉である。
「なんなのですか? これは」
床に並べた、大中小様々の結晶を見て名称未定がそう口にする。
「いいことが起きるなにかだよ」
ふっふっふっ、と自慢げに言ったが、伝わらなかったようで彼女は首を傾げていた。
◇◇◇◇◇◇
5つ目の〈もっと大きな結晶〉の入手を確認しました。
5つの〈もっと大きな結晶〉は合成され、〈もっともっと大きな結晶〉になりました。
◇◇◇◇◇◇
目の前で結晶たちが重なり合い、そして抱えないと運べないぐらい大きな結晶になる。
しかし、名前が〈もっともっと大きな結晶〉って流石にテキトーすぎやしないか。
ともかく〈もっともっと大きな結晶〉の効果を調べてみる。これで、再び『集めると、もっともっともっといいことが起きる』みたいなことが書いてあったら、流石にキレるかもとか思いながら。
◇◇◇◇◇◇
〈もっともっと大きな結晶〉
使用すると、究極的にいいことが起きる(譲渡不可)。
◇◇◇◇◇◇
どうやら、もう集める必要ないらしく、よかったー、と安堵する。もう、ベネノダンジョンはクリアしてしまったし、壁抜けを使っても集めることができないしね。
「それじゃあ、早速使おうか」
念じた瞬間、〈もっともっと大きな結晶〉は光を放ち始める。
まぶしいっ。あまりの眩しさに耐えきれず、腕で両目を覆った。
そして――
「本?」
目の前にあったのは一冊の本だった。すでに、結晶は失われているから、この本が説明に書かれていた『究極的にいいこと』なんだろう。
◇◇◇◇◇◇
称号〈結晶を集めし者・極〉を入手しました。
◇◇◇◇◇◇
「えっ」
唐突に現れたメッセージに驚く。
まさか称号が手に入るなんて。
称号は困難ななにかを達成することでまれに手に入るものだが、自分には縁のないものだと思っていた。
この称号も説明に書かれていた『究極的にいいこと』の一つなんだろうか。
色んなことが起きて頭が混乱しているが、ひとまず目の前の本の正体を探ることからだろう。
本といえば、今まで〈習得の書〉や〈極めの書〉で大変お世話になった。この本もそれらと恐らく同種。
早速、手にとって説明が書かれているメッセージを確認してみる。
◇◇◇◇◇◇
〈習得の本・極〉
持ち主に最も適したスキルを習得できる(譲渡不可)。
◇◇◇◇◇◇
「えっと……」
新しいスキルが手に入ることは予想していたが、この文言はどういうことだろう。僕に適したスキルをこの本が探してくれるということなんだろうか。
「まだ、終わらねーのですか? 早く夕飯にしたいのですけど」
ふと、名称未定が急かしてくる。
「ごめん、今やるから」と謝りつつ、僕は本を開いた。
すると、〈習得の本・極〉は宙に浮き、自動でページをめくり始める。
◇◇◇◇◇◇
本人の適したスキルを検索しています。
検索終了、スキルの習得中です。
予期せぬエラーが発生しました。
問題を検出しています。
見つかった問題:一定のレベルに達していない。
制限をかけることで問題の解決を図ります。
〈封印〉を習得しました。
◇◇◇◇◇◇
「どういうこと!?」
思わずすっとんきょんな声を出してしまう。
おかげで、名称未定から「うるさいです」と野次が飛んだ。
よくわからないけど、スキルの入手に失敗したみたいだ。
とりあえず、慌ててスキルの確認を試みる。
◇◇◇◇◇◇
〈封印〉
封印されたスキル。
今はまだ使えない。
◇◇◇◇◇◇
嘘だろっと、思わず空を仰ぐ。
これだけ苦労させられた結果がこれとか、流石に納得がいかない。
とか、思っていたとき、ピコンと新しいメッセージが表示される。
◇◇◇◇◇◇
〈封印〉の習得に伴い以下のスキルを習得しました。
〈魔力操作〉
〈アイテムボックス・特大〉
◇◇◇◇◇◇
「えっ!」
よくわからないけど、2つのスキルが手に入った。
しかも、〈魔力操作〉と〈アイテムボックス・特大〉とかめちゃくちゃいいスキルじゃん!
〈魔力操作〉は魔術を覚えるのに必須なスキルだし、〈アイテムボックス〉はたくさんの物を異次元に収納できるスキルだ。
特に〈アイテムボックス〉なんて、持っているだけで重宝されるようなスキル。その上、特大って、小でもすごい有能扱いされるのに。
今まで、持ちきれなくて諦めていた素材もこのスキルがあれば解決だ。
「やったぁあああ!」
全身で喜びを噛みしめた。
その様子を「よかったですね……」と名称未定が冷めた表情で見ていた。
ちなみに、手に入れた称号〈結晶を集めし者・極〉の説明はこんな感じだった。
◇◇◇◇◇◇
〈結晶を集めし者・極〉
極めて多くの〈結晶のかけら〉を集めた者に与えられる称号。
この称号を手にした者は今後〈結晶のかけら〉を集めても効果を得ることはできない。
◇◇◇◇◇◇
つまり、『もう〈結晶のかけら〉を集めても意味ないからな』ってだけの効果しかないらしい。まぁ、すでに満足したし、なんでもよかったんだけどね。
―――――――――――――
面白ければ、感想、星、よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます