第二章
―56― 新しい生活
ここ、ガラボゾの町は異常な町らしい。
らしい、と曖昧な言葉を使ってしまうのは、僕にはそういった自覚がなかったから。
子供の頃から、この町に住んでいる身としてはこの町が異常だなんて感じたことは一切なかった。まぁ、他の町を知らないせいなんだろうけど。
ガラボゾの町では多くのダンジョンが密集するように集まっている。世界的にみても、これだけのダンジョンが一つの町に集まっているのは珍しいんだとか。
おかげで、この町では冒険者の地位が高い。
ガラボゾの町を統治している貴族はいるが、名ばかりなもので実際は町にいる冒険者のほうが力を持っている。
例えば、この町で商いをやろうと思うならば、冒険者の許可が必要だ。その上、毎月みかじめ料を力のある冒険者に払わないと商いを続けていくことは不可能。
じゃあ、具体的に、この町で力の持っている冒険者は誰なのかというと――
「ガラボゾの三大巨頭の一人が失踪したことで、この町はこれから荒れるわね」
というのは、この前偶然会ったオーロイアさんの言葉だ。
ちなみに、ガラボゾの町が異常であるって事実を僕に教えてくれたのも彼女。
そう、彼女が口にした三大巨頭、その一人がまさにギジェルモだ。
三大巨頭というのは、このガラボゾの町において権力を持っている三人の冒険者のこと。
この町で冒険者や商いをやっていこうと思えば、三大巨頭のうち一人にはお伺いを立てる必要がある。
ギジェルモはそのうちの一人だったため、いくら好き勝手やってもお咎めなしで済んでしまうわけだ。
それが、僕の家を燃やすなんて犯罪を犯したとしても。
なんか、息苦しい。
僕は違和感を覚えながら、うっすらと目を開ける。
さっきからベッドで寝ているわけだが、胸に重りでも置いてあるような苦しさを感じていた。
「って、エレレート!」
眼前にいた少女の存在に思わず僕は声をあげる。
なんで、僕に覆いかぶされるようにエレレートが!? ベッドは別々のはずなのに!
「おいっ」
そう僕は言うも、彼女の寝息はとまることなく、てか、さっきから僕を掴む手が強くなっているような……苦しいから、離して!
寝ている彼女から逃れるべく苦闘した後、なんとかベッドから脱出することに成功する。
「はぁ」
と、重い溜息をつきながら周囲を観察した。
ギジェルモに家を燃やされたせいで、住む家がなくなってしまった。僕が床下に隠しておいたお金が入った袋をギジェルモが盗んでいたらしく、〈
僕と彼女のための2つのベッドがギリギリ入るような狭い部屋だ。
当分の間はなんとか暮らしていくことができるだろう。
目下の問題といえば、目の前で心地よさそうに寝ている彼女の存在か。
さっきは、思わずエレレートと呼んでしまったが、実際はエレレートの姿をしているだけで、中身は名称未定という名のレイドモンスター。
彼女とどう向き合うべきか、僕自身はかりかねている。
〈賢者の石〉があれば、彼女は元のエレレートの人格に戻るらしいが、残念ながら今すぐ手に入るような代物ではない。
いつまでかわからないが当分の間は、僕はこの名称未定という少女と一緒に暮らす必要がある。
「はぁ」
またため息をついてしまった。
僕の感情は複雑だ。
名称未定に対し怒りがないといえば嘘になる。今すぐにでも「エレレートに体を返せ」と怒鳴ってやりたいぐらいだ。
だが、怒鳴ったからといって元に戻らないことは自覚しているし、それに、彼女には穏便に過ごしてほしいという思いもある。彼女の体はエレレートのものでもある以上、大事に扱ってほしい。下手に刺激して、変なことをされても困るわけだ。
だから、僕は彼女に怒りを感じている一方、優しくしてあげなきゃという矛盾した2つの感情を抱いている。
「ん……」
しばらくしていると、名称未定は眼をこすりながら起き上がった。
「おはよう」
と、僕は挨拶をする。
すると、彼女は僕に一瞥だけして、返事は返さないで洗面台に向かおうとする。
「ねぇ、昨日こっちのベッドに寝ていたのに、なんで僕が寝ているベッドまで移動してきたの?」
「うるさいな」
イラついた口調で彼女はそう言うと、顔を洗い始めた。
ここのところ、彼女はずっとこの調子だ。僕が話しかけても、まともに返事を返した試しがなかった。
これがエレレートだったら、反抗期なのかな、で済むのだが。
彼女は見た目は人間でも、中身はモンスター。
最初会ったときは、笑いながら人類を殲滅しようとした。それが今では、僕に反抗的ではあるものの比較的おとなしくはしている。
彼女の中で、なにか変化があったのは確かだが、それを僕が問いかけても、なにも答えてくれない。
まぁ、人類を殺そうとしないだけ安堵すべき事柄なのかもしれないけど。
あのとき、彼女は笑いながらギジェルモの一味たちを触手を使って飲み込み、巨大なモンスターを造った。
また同じことされたら、正直手に負えないと危惧していたが、今のところそういった気配はない。
だから、喜ばしいことではあるのかもしれないが、彼女の考えがわからない以上、不安が消えるわけではない。
「なぁ、これから出かけるけど、お前はどうする?」
と、僕は彼女に問いかける。
すると、彼女は「チッ」と舌打ちするだけで、はいもいいえも言わなかった。
だけど、外にでる支度を始めているため、どうやら僕についてくる意思はあるみたいだ。
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