最弱な僕は<壁抜けバグ>で成り上がる ~壁をすり抜けたら、初回クリア報酬を無限回収できました!~

北川ニキタ

第一章

―01― パーティー追放

「てめぇはもうパーティーに必要ない。クビだ」

「……えっ?」


 ダンジョンを脱出した後のことだった。

 パーティーのリーダー、ギジェルモにそう告げられた僕――アンリは放心していた。


「な、なんで、ですか……?」


 ギジェルモは背丈が僕の倍以上あるんじゃないかってぐらいデカく、その上背中にはこれまた僕より大きいじゃないかって思うぐらい巨大な斧を背負っていた。

 そして、気に入らないことがあるとすぐ殴る蹴るといった癇癪を起こすので、これまで僕は極力反抗しないようにしてきたつもりだ。

 だから、いつもなら命令されたことは理由も聞かず実行していた。けれど、今回はそうもいかない。

 唐突にクビと言われたのだ。

 せめて理由を聞かせてくれないと納得しようがなかった。


「それは、てめぇが役立たずだからだよ」


 そう言うと、ギジェルモは大口を開けて笑った。

 すると、他のパーティーメンバーもとつられるように笑い始める。


 確かに、僕は役立たずかもしれない。

 まともなスキルもないし、未だにレベルも1だ。

 けど……ッ。


「た、確かに僕は弱いけど、それでもパーティーのために頑張ってきたじゃないか!」

「それは荷物持ちとしてだろうがッ!」


 グニャリ、と視界が歪む。

 ギジェルモに顔面を殴られた。おかげで、体が後ろに吹き飛ばされる。


「チビが親分に逆らうなよ!」

「そうだっ、そうだっ!」


 ギジェルモの取り巻きでもある他のパーティーメンバーが囃し立てるようにして僕をからかう。


「で、でも、それでもいいって、加入するとき、言ったじゃ……う、うぐ……っ」


 最初は反論するつもりで、口を開いていた。

 けど、喋っていくうちにじんわりと殴られた箇所が痛み出し、目尻には涙が浮かんでくる。

 やっぱりギジェルモは怖い。

 だから、開いた口はだんだん萎んでいき、結局なんもいえなくなってしまう。


 およそ一年前、ギジェルモのパーティーに加入した。

 誰も僕をパーティーに入れてくれない中、唯一入れてもらったパーティーがここだ。

 そのとき、僕は「雑用でもなんでもするから入れてください」と必死に頭を下げたことがある。


 一年前のときはパーティーに入ってしまえば後はなんとかなる、そう思っていた。

 パーティーにいれば、レベルをあげる機会はいくらでもある。レベルを上げて、着実に実力も身につけていけば一人前の冒険者になれる、と。


 だというのに、僕のレベルは未だに1だ。

 レベル2なんて、魔物を何体か倒せばなれるのに、その域にさえ届いていない。

 その理由は僕のスキルにあった。

〈回避〉、これが僕の持つ唯一のスキルだ。

 普通なら〈剣技〉や〈魔法〉など攻撃するスキルを持ち合わせている。

 その上、ステータスにも問題があった。

 攻撃力がたったの10しかないのだ。

 これでは、いくらモンスターを斬ろうとしてもダメージを与えることができない。

 それでも僕は荷物持ちとしてパーティーのために奔走してきたつもりだ。

 何度もモンスターに襲われて危険な目にあったが、荷物を守ってはこうしてダンジョンから帰還していた。


「でも、なんで今更クビに……」


 クビにする機会は今までいくらでもあったはずだ。

 なぜ、今日クビを言い渡されたのだろう。


「それはてめぇがもう使い物にならねぇからだよ」


 そう言ってギジェルモは僕の左腕を指差す。


「その怪我じゃ、荷物もまともに持つことできないだろ」


 今日、僕はモンスターに襲われて左腕を怪我をした。

 いつもの僕なら魔物に襲われても攻撃を避けられた。

 けど、今日は自分だけでは持ちきれない量の荷物を任された。そのおかげで、動きが制限されてしまったのだ。

 それでも必死に荷物を落とさないでダンジョンを脱出したのに。


「このぐらいの怪我なら、回復薬を使うか回復術士に頼めば――」

「なんで、てめぇ如きの怪我を治すのに、金を使わなきゃいけねぇんだよ!」


 ギジェルモがそう怒鳴った。

 ひぅっ、と反射的に身を強ばらせてしまう。


「そういうわけだ。てめぇとはここでお別れだ」


 そう言って、ギジェルモは僕に背を向けた。

 他のパーティーメンバーもぞろぞろとついていく。


「せいぜい野垂れ死ぬんだな」


 誰かが茶化すようにそう言った。

 すると、ドッとみんなが笑い出す。


「ま、待って――」


 このままパーティーを追い出されるわけにいかない。

 生活をするため、なにより妹のために冒険者としてお金を稼がなくてはいけない。

 だからは立ち上がって、追いかけようとするが――


「しつこいんだよっ!」


 誰かが僕のことを蹴り倒した。

 貧弱な僕の体は意図も簡単に宙に浮かされる。


「ぐはっ」


 そして、壁に体を強打した僕はそのまま動けなくなってしまった。


 こうして僕はパーティーを追放された。



 ◇◇◇◇◇◇


 アンリ・クリート 13歳 男 レベル:1

 MP:90

 攻撃力:10

 防御力:50

 知 性:60

 抵抗力:60

 敏 捷:150

 スキル:〈回避〉


 ◇◇◇◇◇◇



―――――――――――――


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