元お飾り王妃は留学生の本音を知る
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「……で、フライア嬢は王太子に喧嘩を売ったっていう訳ね」
「そう、なのでしょうね」
またしてもその日の放課後。私は、ブラッド様のクラスである留学生のクラスにやってきておりました。我ながら寂しいとは思いますが、今の私にはお友達がブラッド様しかおりません。お妃教育にばかり時間をかけていたこともあり、今まで私にはお友達らしいお友達がいなかった。
「ははっ、よくやったんじゃねぇの。いずれ、フライア嬢の大切さがわかるって。……あ、今分かってねぇからこんなことになっているのか」
「ちょ、頭に触らないでください……!」
ブラッド様に頭を撫でられて、私は顔をそむけてしまう。確かに、今の年齢だとブラッド様の方が年上ですが……これでも、一応は二十五歳まで生きていたのですよ。今のブラッド様だと、私から見れば年下です、年下。……まぁ、それを実際に言うと頭がおかしいと思われるので、言いませんが。
「……ま、俺はいつだってフライア嬢の味方をするけれどな。俺、これでも結構お友達には優しいんだぞ? お友達以外には、あまり優しくないって言われるけれど」
「それは、よくわかっております」
私はブラッド様と深く関わったこともあり、ブラッド様の本当のお姿を知った。ブラッド様が、仲良くなった人にはとてもお優しいこと。一度懐に入れれば、大切にしてくださること。……打算で近づいてしまった私が、愚かに思えてしまうくらいには優しくていいお方だった。
「フライア嬢。俺のことを、フライア嬢はどう思っているのかは知らねぇけれどさ。……少なくとも、俺はフライア嬢のこと好きだぞ。あ、もちろんお友達としてだけれど」
「……私も、ブラッド様のことがお友達として好きですよ」
私がブラッド様に向けている感情は、あくまでも「お友達」としての感情なのでしょう。恋愛感情には、発展しないと思います。それにはっきりと言って、私は恋愛が怖い。一度結婚した人に手酷く裏切られているからでしょう。恋とか、愛とか。そう言うことを全く信じていない。誰かを好きになることさえ……怖いと、思ってしまう。
「初めは興味本位でフライア嬢とお友達になったけれどさ……今は、心の底からフライア嬢のことを良いお友達だって思っている。……この間も、一緒に出掛けて楽しかったし。あ、そういやこの間のことに関して王太子は何か言っていたか?」
「えぇ、文句を言われました」
「そっかそっか。浮気者のくせに束縛だけはしっかりとするんだな」
「ははっ」。そんな風に、心の底から楽しそうに笑われるブラッド様が、私にはとてもまぶしくて。だって、一度目の時間軸の私は笑うことさえまともにできなくなっていた。笑い方を……忘れてしまっていた。でも、二度目の時間軸になってようやく、また笑えるようになった。もう、笑い方を忘れたくない。そう、強く思っている。
「……最近な、俺がこの国で仲良くなった奴に言われるんだ。フライア嬢と、何かあるのかって」
「それで、なんとお答えされているのですか?」
「ただのお友達だって答えている。だって、事実そうじゃん。あ、そうだ。フライア嬢、グレーニング侯爵家って、知っているか?」
「……グレーニング侯爵家、ですか」
――グレーニング侯爵家。
そこは、代々優秀な宰相や大臣などを輩出している、ヴェッセル王国でも名門に名を連ねる侯爵家。しかし、その実態は謎に包まれておりその詳しい内情を知る人物は身内以外にいないと、言われています。
「あぁ、グレーニング侯爵家。そこの次男のシリルってやつと、俺仲が良いんだ。……フライア嬢と俺が親しくしているって聞いてさ、ぜひ会ってみたいって言っていてさ。会ってみるか?」
「……」
ブラッド様のお言葉に、私は返事を躊躇ってしまう。グレーニング侯爵家の方々とは、一度目の時間軸であまり関わっていない……はず、です。だから、どんなお方がいらっしゃるのかもよく分からない。それでも、ブラッド様のご友人なのですからきっと悪い人ではないのでしょうね。いつかは、お会いしてみてもいいかもしれません。
「……いつかは、お会いしたい、です。今は、あまり乗り気ではありませんが……」
「だろうねぇ。まぁ、気が向いたら言ってくれ。シリルも喜ぶと思うから」
ブラッド様のそのお言葉に、私はただ静かに頷きました。
――シリル・グレーニング様。
そのお方が、どんなお方なのかは分かりません。それでも、もしかしたらいいお友達になれるかもしれない。そんな風に期待してしまうのは、悪いことなのでしょうか? 私は、そんな風に思っていた。
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