くうらん





 ソロプレイヤーに負けるなんて微塵も思ってない顔が連ねる。


 何度もスキルを見切り、詠唱キャンセルを駆使して立ち回る。


 六対一。


 これはゲームだ。スキルの軌道に入らなければどうと言うことはない。


 守る者がない、味方の考えも読まなくていい。


 なんて気楽なんだろうか。


 目の前の敵の考えを読むだけでいいなんて。


【斬鉄剣】


 起動が早く相手に固定ダメージを与えるスキル。


 三秒のクールタイムがあるが見合うスキルだと思う。


 ここで二歩下がりお辞儀するように頭を下げると斬鉄剣は剣を彩る綺麗なエフェクトと共に俺の頭上を抜ける。


 魔法を二度に渡って詠唱キャンセルするとキンキンと音だけを鳴らして自動的に二歩前へ。


 


【スラッシュ】



 初歩スキル。


 ダメージは少ないが起動が早くクールタイムがないのが良い。


 剣スキルのダメージは武器依存だが今の俺には関係ないなと自分の刀を見ながら思う。


 俺が懐に入り込んで居るのにも関わらず敵はシステム通りの軌道をなおも続け、首を差し出す形になっている。


 スパンと小気味の良い音を残して首を断ち切ると相手は粒子になり消える。


 クリティカルが成功すると左右を見る暇は無く俺をアクティブスキルのエフェクトが囲む。


 魔法や剣のエフェクトだろうか? 逃げきれない。


 今更追い詰めた所でもう遅い。


 俺は32度目の詠唱をキャンセルする。


『フレイム・エース・ウォール』


 遮る物のないフィールドが俺を起点に一瞬で轟々と燃え盛る火の海に姿を変える。


 成功などしないはずの最上位魔法に驚きの目をしながら俺を囲むプレイヤー達は儚く消えていく。


【YOU WIN】


 勝利の文字が目の前に現れると会場いっぱいの歓声が俺を賞賛した。


 今日も俺は小銭を稼いでいる。


 一日三回のクランバトル。挫けそうになった日、サボった日も何度もあるが、このゲームで換金していた無けなしの生活費を削って今もなおこのゲームの魅力に取り憑かれている。


 俺は心底の馬鹿らしい。


 目を瞑れば今でも思い出す三年前のあの日の事を……。






 


 クランを結成する為には金がいるのだ。



『はぁ? 1000万円? ふざけんな!』


『そう言われましても』



 金髪巨乳美女で受付嬢のアリサさんが俺に困惑顔を向けている。


 クラン設立の為にこの国【ミースティア】のゲーム運営がやっているクランにやってきた。


 クランバトルや設立はシステム操作で出来るがこの国に来てから何かのバグかと思い直接クランで申請を行おうとしたのだ。


 自己紹介も終わり本題を切り出したらコレだ。


「前の国では5万でクランが建てられたはずだ」


「それは何年前の話ですか?」

 

 俺達【永遠の誓い】がクランを設立したのは五年も前の話で、今は国ごとにクランが溢れかえりこの金額になっていると。


 新しく作られると目障りなので既存クランに入ってくださいという事なのか。


 俺にしたらそれは絶対にない。


 それではとアリサさんに提案されたのが仮クラン。


 クランバトルは主に他国とのクランバトル、自国でのクランバトルに別れている。


 他国とのクランバトルは参加費は高いがそのバトルでのスポンサーも付きやすく、周りの国からも観戦が可能になっている。Web配信などの許可が出てるのも特徴でファンが付けば投げ銭等で収益が発生しやすくなる。


 自国でのクランバトルは参加費は安いがWeb配信などの許可は無い。自国内だけは観戦が可能だが投げ銭機能もそれに応じてショボイ仕様になっている。


「仮クランは自国内だけでバトルを認める代わりに他国とのバトルは出来ません」


 普通のクランバトルと違い投げ銭機能は発生せず、勝利報酬は全て参加費とクラン設立の為の貯金で消えると説明を受ける。


 一千万円を貯めるために無一文でクランバトルをしろと。


 そして負けた後のペナルティ。


「参加費が払えないので契約自体が無くなります。今まで払った分も無くなるのでオススメはしません。だからどうか」


 なので既存クランに入ってくださいか。


 アリサさんは俺みたいな輩を何度も見てきたのだろう。


 心底心配している。


 だけど譲れなかった。



『分かりました』



 俺はその場で仮クランを承諾した。








 目を開けると盛大の歓声が今だに俺を包んでいる。



【連勝ボーナス3000勝目。一千万円達成確認しました。クランを設立してください】



 ピコンピコンと【クラン名を書いてください】と目の前に表示が現れる。


 俺は目を見開き、震える手で恐る恐る文字を入力していく。



【くうらん】



 俺には名前を書く欄の余白が酷く大きく見えた。




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