炎奏するルールブレイカー〜追放されたからソロプレイで無双する〜

くらげさん

永遠の誓い





 一、二、三、今!


 味方の詠唱と同時のタイミングで駆け出す。ここで彼が常時詠唱に切り替えて魔法の発動を遅延し、俺が撹乱した所で魔法を放てば……。


『グフッ!』


 俺は背中に衝撃を受けて敵の前まで盛大に飛ばされる。


 後ろを見れば味方。味方に見せるような顔ではなくゴミを見るかの様な目で俺を見ている。


 チッと舌打ちが聞こえて。


『またかよ』そんな声が続く。


 HPのバーに視線をやると緑から段々と黄色に変わり赤に点滅する。


 ゲージが限界を突破すると。


【YOU LOSE】


 周りの歓声とは裏腹に目の前に無機質な文字が浮かんだ。


 中級クランから上級クランに上がる大事な昇格戦。


 絶対に勝たないといけない試合だった。





 これはゲームだ。


 だけどここには遊びでやっている奴らは誰一人おらず、俺もその一人だと言うことだ。


【ゲームで稼いだ金が現実の金になる】


 そんな夢のような世界を体現したVRゲーム【ReLIFE】は瞬く間に世界中に普及した。


 暇を持て余した主婦や学生を始め、仕事をしている人でも副業であったり、仕事を辞めて本業で始めると言う輩までいる始末。それ程に皆はのめり込んで行った。


 このゲーム。いや、この世界に全てを賭けてる人だっている。


 なのにだ。


 俺は【永遠の誓い】の名を持つクランメンバーに不甲斐ないとホームに戻り頭を下げる。


 今までも俺の読みが外れたばかりに昇格戦を何度も逃している。


 クランのランクが上がれば人気も上がり、スポンサーも増えて収益は大きくなる。


 俺はそれを何度も邪魔してるのだ。


 謝って済む話ではないがそれでも。



『クビだ』



 赤い短髪をボリボリかいてクランマスターのレンがウザったそうに口を開く。


 何を言ってるんだ? とポカンと頭を殴られた様にその一言が頭に入って来なかった。


「シンはクビだと言ってる」


 俺の名前を呼び怒気を強めて追い打ちをかけるレン。


 メンバーのクビは最低でもクランメンバー全員の承認がいる。


 このクランには俺を含めて七名クランメンバーがいて、小級クランにはスポンサーがつかない為に入隊脱退は個人の自由に行われるが、中級クランからはスポンサーも付くが制限も付き、個人の脱退宣告は出来ないのだ。


 それもそのはずで中級以上のクランを脱退したメンバーはもうその国のどのクランにも属せない。


 十の国は最上位クランが各国ごとに治めているがその一つの国ではもう他のクランに入る事が出来ないのだ。


 この措置に対しては信頼があるクランから抜けると言う事は訳アリが多い為だと思っている。


 違う国に行くのにもそれなりの金が必要になり、脱退はこの世界では死刑宣告に近い。



 今まで五年も一緒にやってきたメンバー達に視線を配る。


 目の前に脱退の文字が浮き上がると横には【1】と数字が現れる。


 俺は見えないがメンバー達は数字の横に賛成と反対の文字が浮かんでいる。


「マスター我慢した方だよなっと」


「そうよ。こんな奴邪魔でしかないのに」


 ねー。と示し合わせたかのようにケラケラ笑いながらそう言い放った双子の兄妹リオンとライカ。


 直ぐに【3】数字が上がった。


「寄生虫をいつまで置いておくのかとヒヤヒヤしてたところだ」


 メガネをクイッと持ち上げたエックスが眉間に皺を寄せながら言葉を吐き捨てる。


【4】


 俺を先輩先輩といつもニコニコと話しかけてきたスミレに視線を飛ばす。


「キャッ! コイツ今私の事見て来たんですけどキモ!」


 今はガクガクと身体を震わせてレンの後ろに隠れていた。


【5】



 最後の一人は俺と同時期に入って来たサクヤ。


 この世界はボトルポットという装置で全身からデータを抽出するからか髪の色、肌の色、目の色や耳などの細かな部分しか細工が出来ない仕様になっている。


 だから容姿の殆どはリアルに依存していて、サクヤを見れば男なら惚れない要素は無いほど完璧なのだ。


 スタイルはスレンダーで、すらっと伸びた脚線美とサラサラの長い黒髪。性格も気立てが良く凛としていて、俺が密かに惹かれていた女性だ。


 だからか俺はいつもサクヤを笑わせたり気を使ったり必死にアピールしてたんだと思う。


 一番俺がこのメンバーで話してきた時間は多い気がした。


 サクヤならとそんな淡い希望を抱いてしまう。


 好意に似た感情も自惚れかもしれないが確かにあったはずだ。


 スタスタとサクヤは俺の前に歩み出る。


 そして一枚の紙切れを差し出す。


 それを受け取ると。



『じゃあね。シン君』



【6】


 その笑顔と共に光に導かれると俺はこの国の始まりの場所。


 噴水広場に立っていた。

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る