第3話 幻獣メチャランクチャヤ

[まえがき]

大勢の方にフォローしていただいたので、調子に乗ってもう一話。

食事中の方、これからお食事の方、申し訳ありません。今回は単話です。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 王宮への出仕日でもない今日は、いつものごとく朝食を食べた後、居間で家のものが出してくれたお茶を飲みながらまったりぼーとして半分居眠りしていたら、またアスカがどこからともなく冒険心をくすぐるようなみょうなうわさ話を聞いてきた。



「マスター」


「おっと、ソファーに座っていい気持ちになってた。アスカ、どうした?」


「あの幻獣ヒプチャカメチャチャが実在していたようです」


「そんなバカな。あれって、アスカの完全な作り話だったじゃないか」


 アスカの言葉で、一気に目が覚めた。


「最初は冗談で作った幻獣の名まえでしたが、どこか記憶の片隅にあった実在モンスターの名まえが記憶の奥底から漏れ出てきたのかもしれません」


「ほんとうか?」


「いえ、冗談です」


「なんだよ、それは」


「冗談はこれくらいにして、本当のところは、暇そうにしているマスターをからかっただけです」


 ありがとよ。


「わざわざ幻獣の話を持ち出したということは、それだけじゃないんだろ? 実際のところアスカは何が言いたかったんだ?」


「ヒプチャカメチャチャはさすがにどこにもいませんが、幻のモンスターがキルンの迷宮に現れたともっぱらの噂です」


「俺はその系統の番組を大昔に嫌というほどテレビで見てるが、そもそも、幻のモンスターが現れたらもう幻じゃなくなってただのモンスターだろ」


「今まで、その存在が確認されていなかったという意味で『幻の』という修飾子しゅうしょくしが付いたのでしょうが、その存在が確認されたようです」


「ふーん。それでそいつはどんなモンスターなんだ?」


「名まえは何と、メチャランクチャヤ」


「アスカさん。どうも俺には、そのモンスター、アスカの創作モンスターの臭いが思いっきりするんだが」


「マスター、メチャランクチャヤは断じて私が創作したモンスターではありません」


「ほんとかな?」


「実物を見ればマスターも信じると思います」


「実物?」


「はい。今、キルンの冒険者ギルドのギルドホールに、そのメチャランクチャヤの牙が飾ってあるそうです」


「牙だけだと何が何だか分からないじゃないか?」


「本体はもう解体されて無くなっているので、解体する前のスケッチがパネルになって牙と一緒に置いてあるそうです」


「アスカはそのモンスター、えーと」


「メチャランクチャヤです」


「そいつがどういったモンスターなのか聞いてるのか?」


「もちろんです」


「で、どんなモンスターなんだ?」


「それはですね、

 今回見つかったメチャランクチャヤの体長は約7メートル、頭部は意外に小さく5センチくらいだったとか。見た目はヒモ・・のようなモンスターだったようです。あの砂虫の幼体ではないかとも言われているようです」


「アスカ、体長7メートルで頭の大きさが5センチ? それだとヘビより細くないか? それに5センチの頭に付いている口はいくら大きくても5センチだろ? そこに生えてる牙なんてたかが知れてないか? せいぜい3センチとか。しかも、ヒモ?って言えば平べったいんだろ? 砂虫はないだろ」


「マスター、私は聞いてきた話をマスターにお話ししているだけなので一々話の腰を折らないでください」


「す、すまん」


 一応謝ってやったが、アスカの今の物言ものいいのこの感じ、何か仕掛けがありそうだ。



「まあいいや、百聞は一見にしかず。そこまでアスカが言うなら、キルンに行ってみるか? キルンならここから直線距離で500キロもないし、1時間ちょっとだ。昼までには到着して、冒険者ギルドを覗いてそのモンスターを確認した後、向こうで昼食をとろうか」


「それではさっそく。特に準備はないので、このまま行きましょう」


 家の者に夕方までに戻らないときは、マーサにもらった小型通信端末で連絡するすると告げて俺たちはスカイ・レイに乗り込んだ。



「『スカイ・レイ』発進!」


「『スカイ・レイ』発進します」



 キルンの北の飛空艇発着場の隅にスカイ・レイを着陸させて、すぐに収納し、そこから駆け足で街の北門をくぐり抜けてキルンの冒険者ギルドにやってきた。


 俺も分別の付くような歳になっているので、昔のように神撃の八角棒を持ちだして周囲を威嚇いかくすることもなくアスカを連れて穏やかにギルドの扉から中に入っていった。


 最近の冒険者連中は昔と比べ随分おとなしくなっているし、いわゆるマトモ・・・になっている。もちろんそれは、俺たちの冒険者学校の卒業生たちのおかげでもある。


 中に入ってギルドホールを見回したが、残念ながら冒険者学校のペラマークを付けた冒険者はいなかった。


 そこは仕方ないとして、目当ての物は目の前。ホールの真ん中あたりに台が置かれてその後ろにパネルが立てかけて置かれていた。その台の上の小さなガラス箱の中に確かに3センチくらいの牙?だかかぎ爪のようなものが4、5本収められていた。そしてその後ろのパネルには、メチャランクチャヤの名まえが一番上に書かれて、全体像がスケッチされていた。


 スケッチを見ると、頭を先端として長い胴体をぐにゅぐにゅと前後に何度も折り曲げたような絵だった。胴体は等間隔の節で連なった感じだ。うーん、これは。メチャランクチャヤってもしかして?


「アスカ、これって、サナダムシ・・・・・じゃないか?」


「おそらくですが、大型のモンスターに寄生していたのかもしれません。それで幻のモンスターだったのでしょう」


 今アスカは俺の顔を見ずに返事をしたが、よく見ると横顔が何か変顔に見える。


「どうでもいいけど、想像するだけで気持ちが悪くなってきた」


「ギルドは、これを解体したという話でしたが、一体どうしたんでしょう? まさか、解体して肉屋に売ったとか?」


「アスカ、もうよそう。あまり具体的に考えたくない。そろそろここを出ないか?」


「一応確認は取れたことですしそうしましょう。

 マスター、そろそろお昼です。ここキルンでまた新しいお店ができたそうですからそこに行ってみませんか? そのお店はこのギルドの裏手の通りにあるそうで、冒険者ギルドから変わったモンスターを仕入れて、いろいろ料理して出してくれるそうです」


「アスカ、別のところにしよう」


「その店で変わった物をいろいろ試そうと思っていましたがマスターがそういうなら残念ですが別のところにしましょう」


 残念だというアスカの顔が、妙にうれしそうな顔に見えた。







[あとがき]

先日行った犬猫病院にポスターが貼ってあったもので、つい。

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