第44話 王との対面
「――君が噂のアトラス君か」
王子との決闘があったその夜。
アトラスはルイーズに誘われ、王宮である人物と夕飯を食べることになった。
――その相手は、
「娘から話は聞いているよ」
ルイーズを娘と呼ぶ人物。
それは――この国の国王だった。
息子のジョージ王子よりもさらに高身長で、体格もがっしりしている。例え王であると知らなくとも、その偉大さを感じ取ってしまうような存在感があった。
「た……大変……光栄です」
アトラスはしどろもどろになりながら答える。
「そう緊張するな。今日は楽しく話をしようじゃないか」
王はそう言ってワインに手を伸ばした。
「は、はい……」
ただの平民であるアトラスは王と会うというだけで緊張していたのだが、その状況に拍車をかけるものがあった。
それは、
「アトラスさんもどうぞ、ワインを」
――アトラスの真横(・・)に座っているルイーズの存在である。
今三人が食事をしている部屋は、途方もなく広く、おそらくその一室だけでアトラスの家の敷地と同じくらいの大きさがあった。それにも関わらず、なぜかルイーズはアトラスの真横にピッタリくっついているのである。
娘が何処の馬の骨ともわからん男とくっついていたら、普通の父親は気が気でなくなってしまうだろう。ましてその娘が王女ともなればなおさらである。
しかし、幸いなことに王は今の所穏やかな表情を浮かべていた。
「アトラス君の活躍ぶりはよく聞いている。どうだろう、それだけ力があるのであれば、官職が欲しいという気持ちはないか?」
いきなり予想外の質問を受けてアトラスは戸惑う。
「か、官職ですか……。正直、全く考えたことありませんでした。あ、その……いやと言うわけではなく、実力的に及ばないと思って……」
「何を言う。≪ホワイト・ナイツ≫の最年少役員が実力的に及ばないなど、ありえないだろう」
王がそう言うと、ルイーズが横で頷く。
「そうですよ。アトラスさんならどんな役職でもやりこなすに違いありません」
「か、過分なお言葉ありがとうございます……」
「お世辞で言っているんじゃないぞ。真面目にリクルートしているのだ。そう。例えば、宮廷騎士団長などはどうだ」
「きゅ、宮廷騎士団長ですか!?」
宮廷騎士団といえば、武官の中では一番名誉な職だ。
「し、しかし王様。宮廷騎士団長と言えば、貴族がなるものでは?」
団員はともかく、騎士団長は伯爵以上の貴族でないと任じられない。平民のアトラスは逆立ちしてもなれないはずだ。
「なに。爵位などどうとでもなろう。例えば、そう。ルイーズと結婚すればいきなり公爵だ」
王の言葉に、飲みかけていたワインを吹き出しそうになるアトラス。
「けけけけ、結婚!?」
あまりに突然な言葉にアトラスはもはや動揺を隠すことができなかった。すると、ルイーズがその大きな胸の前で両手を合わせて言う。
「お父様! 妙案ですね!」
「そろそろお前もいい歳だ。旦那を貰うにはいい年頃だ」
ハハハと笑う王。
アトラスはパニックになって言葉を失っていた。
「王女の配偶者なら公爵位もなんら不自然ではない」
混乱したアトラスの頭に浮かんだのは、先ほど倒したジョージ王子のことだった。
「そ、そういえば……騎士団長といえば、ジョージ様がいらっしゃいますが……」
今の宮廷騎士団長はジョージ王子である。
まさかそれを差し置いて自分が騎士団長になるなどありえないだろうと、アトラスはそう思ったのである。
だが、返ってきたのは予想外の返事だった。
「近々あいつには騎士団長をやめてもらおうと思っている」
王は急に深刻そうな口調でそう言った。
「や、やめさせる……?」
「見栄ばかり張って、謙虚さのカケラもない。成長させるために騎士団長にしたが間違いであった」
どうやら王も息子の本当の姿を知っているようであった。
「一緒に仕事をしていて大変だろう。今日もいきなり決闘を申し込まれたと聞いた。もし次何かひどいことをされたらちゃんと報告してくれ。厳正に対処する」
「……は、はい……」
意外な方向に話が進んで驚くアトラス。
「まぁ騎士団長のことは置いておくとしても、私は君に宮廷で働いて欲しいと本当に思っているのだ。ぜひ前向きに考えてくれ」
王様は、まったくもって真面目な顔でそう言った。
「あ、ありがとうございます……」
「それから娘のこともぜひ頼むぞ。なにせ娘は君に惚れ込んでいるからな」
「…………」
もはやありがとうございますと言っていいのかもわからないアトラスであった。
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