第41話 アトラス、またも王子を圧倒してしまう。
アトラス一行は、今日もスムーズに攻略を進め、あっという間に中ボスの間の前までたどり着く。
そこには当然宮廷騎士団たちの姿はなかった。
「今日も、先に着いちゃいましたね」
イリアが、得意げな顔でアトラスに言う。まさか宮廷騎士団が休日出勤して攻略を進め、あまつさえ中ボスを解放して一芝居打っているとはつゆ知らないアトラス一行は、王子たちがまだ後ろの方で苦戦していると思ったのである。
「うん、みんなが頑張ってくれたから。……でも、これからどうしようか」
中ボスを倒さないと先には進めないが、勝手に倒してしまっては王子たちのメンツが丸つぶれになる。アトラスもさすがに王子たちが来るのを待った方がよいと考えたのだ。
だがそうなると、アトラスたちはもうやることがなくなってしまう。
「もう、私たちだけで中ボスを倒しちゃっていいのでは?」
アトラスもイリアの提案に同意したかったが、しかし相手が王子とあっては下手なことはできない。
「一応、しばらく待ってみようか」
「隊長がそうおっしゃるのであれば」
アトラス一行はボスの間を前に休憩をとることになった。
――しかしである。
「……あの、隊長。これ……」
部下の一人がアトラスに近寄ってくる。
「どうかしましたか?」
「中ボスはどんなモンスターかなと思って探索魔法を使ってみたんですけど……多分ボスの間にはボスはいません」
それを聞いてアトラスは首をかしげる。
「ボスがいない?」
「はい……」
「ボスの間にボスがいないとは……」
アトラスは部下の言葉を確かめるべく、ボスの間の扉を開け放つ。
すると、確かにそこはもぬけの殻になっていた。
しかし、中に入って確認すると、入り口と反対側にある扉は開いていない。奥の扉が開いていないということは――すなわち、ボスは倒されていないと言うことを示している。
(だとしたらボスはどこへ?)
アトラスはその不可思議な状況を解き明かすべく思考する。
――だが考えてみると、答えは一つしかなかった。
ボスの間へ繋がっている道は二本。片方は自分たちが歩いてきた道。だからそこにボスはいない。
だとすれば、もう片方――宮廷騎士団が担当している道しかない。
(あっちにボスが行ったのか? でもだとしたらなぜ……)
そんな疑問符が浮かぶが、とにかく状況を確かめるべく、アトラスはボスの間を出て、宮廷騎士団が攻略しているはずの通路の扉を確認した。
すると――
「あ、開いてる!」
まだ攻略されていないとばかり思っていたが、扉は開いていた。すなわち、誰かがこの道を通って、中ボスに挑んだのだ。
「もしかして、宮廷騎士団だけでボスに挑んだのでは?」
アニスが言う。
「そうかもしれない……。とりあえずこっちに行ってみよう」
一行はアトラスを先頭に、ボスが通ったかもしれない通路を進んでいく。と、しばらく進んだところで、アトラスたちは通路の脇に穴が空いているのを見つけた。何やら隠し通路のようになっていた。
「た、隊長! この先に大きな魔力反応があります!」
部下がそう告げた。
「ボスはこっちにいるのかな」
「おそらく」
アトラスたちは穴の中に入っていく。
そのまましばらく進んでいくと、やがて開けた場所が見えてくる。
「あれは……」
広い暗がりの空間はよく見る光景だった。
「……ボスの間?」
広い空間の奥に、アトラスたちはモンスターを見つける。
「ドラゴンゾンビです!」
部下の一人が叫んだ。
その腐りかかった肉体は巨大で、その威圧感は圧倒的だった。
だが、それよりも、アトラス目に飛び込んできたのは、ドラゴンゾンビに怯える若い女子たちだった。どこかの学校の生徒らしく、皆制服を着ている。
そして、彼女たちの数メートル前に剣を構えた宮廷騎士たち。よく見ると、宮廷騎士の少し後ろの地面には――倒れたジョージ王子の姿があった。ステータスを確認すると体力は残っている――が、なぜか気絶しているようだった。
アトラスたちには何が起きているのか理解できなかったが、とにかく宮廷騎士たちが中ボス相手に敗北寸前であることはわかった。
「みんな、急げ!」
隊長であるアトラスは号令をかけ、真っ先に自分がドラゴンゾンビへと斬り掛かって行った。
「ハァァッ!!」
いつも通りアトラスのFランクレベルの攻撃ではボス相手に大きなダメージを与えることはできない。だが、それに反応してドラゴンゾンビが反撃してくる。ドラゴンゾンビの放った漆黒の炎を全身で受けるアトラス。だが、その攻撃を≪倍返し≫で跳ね返す。
「グァァァァ!!!」
ドラゴンゾンビのHPが大きく削れた。
SSランクとはいえ、アトラスパーティにかかればさほどの脅威ではなかった。部下たちの支援もあり、五分ほどの短い戦闘でドラゴンゾンビのライフは尽き果てる――
ボスを倒し、学生たちが危機を脱したことを確認したアトラスは一つ大きく息を吐いた。
「みなさん、大丈夫ですか?」
アトラスは学生たちの方へ歩み寄っていく。見渡すと、幸いライフが減っている者はいなかった。
「あ、ありがとうございます!!!」
「おかげさまで無事です!!」
ボスがいなくなり緊張の糸が途切れたのか、学生たちは安堵の笑みを浮かべ、そして救世主であるアトラスの方へ駆け寄ってくる。
「あ、あの冒険者さんのお名前は? お名前はなんていうんですか?」
「あ、アトラスだけど……」
「アトラスさん!! 本当にカッコよかったです!!
「あんなに強いモンスターを簡単に倒してしまうなんて!!」
「宮廷騎士団でも勝てなかったのに、すごいです!!」
アトラスは当然そんな風に褒めちぎられて、どうしていいのかわからずたじろいでしまう。
「い、いや……えっと……」
眩しい目で見てくる学生たちを直視できず、挙動不審に視線を泳がせていると、アトラスの視界に宮廷騎士たちの姿が入ってきた。
「そうだ。王子様!」
アトラスは王子が倒れ込んでいたということを思い出し、女生徒たちから逃げるように王子の元へと駆け寄った。
見ると、王子は相変わらず気絶していた。おそらく脳天から強烈な一撃を食らって状態異常になったのだろう。しかしHPはちゃんと残っているし、毒におかされている訳でもないので安全であった。
アトラスは状態異常を回復するポーションを取り出して、王子に飲ませる。次の瞬間、すぐさま王子は目を覚ました。
「……!? な、なぜお前がここに!?」
目を覚ますなり、動揺して尋ねるジョージ王子。
「……えっと、中ボスの間に行ったら、ボスがいなくて、それでこちらに来たら王子様が倒れ……ボスと戦っていらっしゃって……」
アトラスは言葉に気をつけながら状況を説明する。
そして王子はすぐに状況を思い出す。
「ッ!! ぼ、ボスは!?」
「倒しましたよ。安心してください」
アトラスは、王子が学生たちの身の安全を気にしているのだとばかり思って、そう答えた。
だが、アトラスの言葉で王子は絶望した。
(て、手柄を横取りされた!!)
最悪な状況だった。
王子は恐る恐る背後を見ると……そこにはアトラスの方をキラキラとした眼差して見ている女学生たちがいた。
王子は言葉が出てこなかった。ただただ嫌な汗が流れる。
「とりあえず攻略の続きは明日にしましょうか?」
アトラスは助け船のつもりでそう言った。
もはや王子は何も言い返すことができなかった。
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