第35話 あなたのお言葉、録音してましたけど?


 クラッブは身体を震わせながら王宮にある裁判所へ連れてこられた。審判が行われる部屋に着くと、そこには王女が待ち受けていた。

「≪ブラック・バインド≫ギルドマスター、クラッブ。連行された理由はわかっているな?」

 ルイーズは厳しい口調で問い詰める。

「な、なんのことでございましょう、王女様。突然のことにただただ驚いております」

 当然クラッブは白を切る。しかし、それがさらにルイーズの怒りを買った。

「とぼけるな! 調べはついているのだぞ!」

「お、王女様、私は何も……」

 だが、そんなクラッブの言い訳を一喝するように、王女が鋭く言う。

「入りなさい!」

 王女がそう言うと、部屋に二人の人物が現れた。

「……なッ!!」

 現れた二人を見てクラッブは目を見開く。その驚きようはもはや自白したも同然だったが、しかし無理もないことだ。

――なにせ、殺したはずのアトラスとアニスが目の前に現れたのだから。

(……ば、バカな!!!! 誰一人生きては帰れぬと言われる≪奈落の底≫に突き落としたはずなのに、なぜここにいるのだ!)

クラッブは滝のように汗をかいた。

「お前はアトラスとアニスを≪奈落の底≫に突き落とした。決闘で負けたことへの腹いせにな。許しがたき蛮行だ」

 王女がそう言い放つ。

「ち、違います、王女様! 神に誓って私はそのようなことはしておりません!」

 クラッブは声を震わせながらそう主張する。

「まだとぼけるのか!」

「あ、アトラスは嘘をついているのです!! そいつのたわごとを信じるつもりですか!」

 クラッブは声を張り上げる。しかし、それにルイーズはただ冷酷に告げる。

「……アトラス、あれを」

 ルイーズがアトラスに言うと――彼はポケットから黒い石を取り出した。

(あ、あれは録音石!!)

 クラッブはそれを見て目をひん剥く。

(ま、まさかあれで録音を!?)

 クラッブの心臓は高鳴り――

 そして次の瞬間、録音された音が部屋に響き渡る。


『――妹ちゃん、大人になったら結婚しよう!』


「…………」

 突然聞こえてきた愛の告白に、裁判所が静まり返る。

 そう。この録音石は、アニスを助けに行く際に妹ちゃんに手渡されたものだった。アトラスはこれを使って、クラッブとのやり取りを録音していたのだが……

 当然のように、そこには「アトラスは妹ちゃんのことが大好きである」と言う証拠の音声が詰まっていた。

「…………すみません、これは違います」

 アトラスは顔を真っ赤にしながら首を振る。

「えっと、すみません。こっちです……」

 ――気を取り直して、アトラスは音声の続きを流す。

 ――――――――

 ――――

 ――


『良くきたな、アトラス』

『どうしてあなたが――』

『なぜ? 簡単だよ。目障りなお前を殺してやるためさ』

『お前のせいで、SSランクダンジョン攻略の受注を取り消された。王女様と謀って、俺に恥までかかせたんだ』


 そこには≪奈落の底≫に呼び出された際のクラッブとアトラスのやり取りがしっかり録音されていた。これが何より動かぬ証拠だった。

 流石のクラッブも、もはや言い逃れはできなかった。

「お、お、おっ おぅぅじょさ……あ……こ、これは……」

 クラッブは震えすぎて、もはやまともに言葉を喋ることさえできなかった。しかし少しでも自分の身を守ろうと、涙を流し、鼻水を地面に垂らしながら、頭を地面に擦り付ける。

「お、お、おゆゆるし……を……!!お、おううじょうさまぁあ!!!」

 しかし、そんなことで許されるはずもなかった。

「お前は最後の最後まで自ら罪を認めようとはしなかった。情状酌量の余地はない」

ルイーズは、厳然たる口調で判決を言い渡す。

「罪人クラッブは、鞭打ち50回の後、ノース・グラン鉱山の奴隷とする」

「む、鞭打ち50回!?」

 クラッブは下された判決の重さに思わず目をひんむいた。

 鞭打ちの刑は、もちろんHPを全て削られて身を守る結界が全くなくなった状態で行われる。当然、通常モンスターに攻撃される時には感じない、耐えがたい激痛を感じることになる。とても正気を保ってはいられないだろう。

 しかも、例えそれを耐え抜いたとしても鉱山の奴隷になる。強制労働何年という罰であれば、その期間を終えれば一般時に戻れるが、奴隷は一生そこで働き続けるしかない。

 まして、ノース・グラン鉱山は≪死の山≫と呼ばれるほど過酷な場所として有名だった。

「お、王女様! む、鞭打ち50回など、し、死んでしまいます!」

 クラッブは思わずそう叫ぶ。だが、

「黙れ! 情状酌量の余地は一切ない」

 王女は一喝する。

「判決は以上、連れていけ!」

 ――クラッブの処遇は全て決まった。

 もう助かる道はないと知ったクラッブは、ただ恐怖に震えながら叫ぶ。

「お、お許しを!!!!! む、鞭打ちだけは!!!!!」

 しかし近衛騎士は容赦無くクラッブを立ち上がらせる。

 クラッブは恐怖のあまり失禁しながら刑場へと引きずられて行くのだった。

「た、助けてくれぇ!!!!!!!!!!!!」

 しかし、その声に答えるものはただの一人もいなかった。


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