第9話【トニー隊長side】転職ギルドからのクレーム
安全なところまで逃げてきた一行。そこでトニー隊長は、クライドに悪態をつく。
「前衛なのに時間稼ぎすらできないとは、どう言うことだ!?」
Sランクパーティである自分たちが、Aランクダンジョンの中ボスから逃げ帰ってきたと言う事実にトニーはブチギレていた。
そして敗北の原因は、全てクライドにあると思い込んでいた。クライドが前衛としてちゃんと時間を稼いでいれば、自分の大魔法でボスを倒せたのに、と。
しかし、クライドは「無茶を言うな」と繰り返す。
「ボス相手に10分も時間稼ぎできるわけねぇだろ!」
だが、それはトニーからするとおかしなことだった。
「お前、本当に大手ギルドでAランクだったのか? 10分くらいの時間稼ぎなら、Fランクの無能野郎でさえできてたんだぞ?」
それはトニーからすると「当たり前」の疑問だった。なにせ自分が無能だと思いこんでいるアトラスは、10分だろうが20分だろうが時間を稼いでくれていたのだから。
だが、トニーの言葉でクライドの堪忍袋の尾が切れた。
「バカ言うな! お前こそ、大魔法の詠唱に10分もかかるとかどんだけへっぽこなんだよ。そんなに時間かけたら誰でも強い魔法使えるに決まってんだろ!」
クライドの言葉にトニーもキレる。
「な、なんだと!?」
だが、トニーが次の言葉を言う前に、クライドがさらにまくし立てる。
「馬鹿馬鹿しい。お前たちと働くなんてこっちから願い下げだ。Sランクって言うからきたのに、嘘つきやがって! 転職ギルドにはCランクの実力もなかったって報告しとくからな!」
そう言ってクライドは踵を返した。
「なんだと!! ふざけるな!」
トニーは背中越しにそう罵倒するが、クライドが立ち止まることはなかった。
†
――翌日、ギルマス室に呼び出されたトニー隊長。
「おい、転職ギルドからクレームがあったぞ!!」
ギルマスのクラッブがトニー隊長を怒鳴りつける。
「ど、どう言うことですか?」
トニーはそうしらばっくれる。しかしギルマスにはクライドの話が全て伝わっていた。
「とぼけるな! 私が用意させたAランク冒険者からのクレームだ! Sランクパーティだと言われたから試験を受けにきたのに、実際はCランク以下の実力しかない奴らを紹介された、騙されたと転職ギルドにクレームがあったらしいだぞ!!」
トニー隊長は内心で悪態をつく。
「も、申し訳ありません……。しかしギルマス、彼が我々もAランクという言葉を信じていたのですが、奴はあのFランク無能野郎アトラス以下の実力しかなかったんです……」
「なに、あのアトラス以下だと」
「はい、その通りです。アトラスにさえできた仕事も、まともにこなせない男でした」
「つまりそれは、転職ギルドがポンコツをよこしたということか?」
「手配してくださったギルマスには申し訳ありませんが……転職ギルドが手数料欲しさに紹介したのかと」
ギルマスは少しだけ怒りを収める。しかしすぐにおかしいと気が付く。
「しかし、アトラス一人抜けたくらいでAランクボスの中ボスから逃げ帰ってきたというのはどういうことだ?」
「それは……なにせクライドがいきなり戦線を抜けたので、一応奴の安全を考えて追いかけたのですが……」
トニー隊長は咄嗟にそう言い訳をした。ギルマスもそれで一旦は納得する。
「わかった。しかし、お前たちも気が抜けているのは確かだ。我が≪ブラック・バインド≫のSランクパーティがダンジョンから逃げ帰ったなどという噂がたったら、ギルドのメンツは丸つぶれだ。もし次こんなことがあったら、ただでは置かないからな」
「もちろんでございます、ギルマス。気をつけます」
「とりあえず、アトラスが抜けた代わりについては、ギルド内の人事異動で補う」
「ありがとうございます、ギルマス」
トニー隊長はなんとかその場を乗り切ったと、冷や汗をぬぐう。
「次のダンジョン攻略は必ず成功させて見せます」
「ああ、頼んだぞ」
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