第4話 最大手ギルドの転職試験
転職ギルドを訪れた翌日、アトラスは早速、最大手ギルドである≪ホワイト・ナイツ≫の実地試験に挑むことになった。実地試験ではダンジョン攻略に同行して転職者の適性を見る。冒険者の転職では一般的な試験だった。
待ち合わせの場所へやって来たアトラスを、一人の男が出迎えた。
いかにも屈強そうな男だった。年齢は30代から40代というところか。銀髪混じりの短髪に、服の上からでもわかる鍛え抜かれた肉体。見た瞬間、歴戦の冒険者だと理解できる。
「あの、アトラスと申します……」
アトラスは畏縮しながら気味に名乗る。それに対して男は快活に応じた。
「よくきてくれた。私はエドワードだ。≪ホワイト・ナイツ≫のギルドマスターをしている」
超一流ギルド≪ホワイト・ナイツ≫のギルドマスター。元Fランク冒険者のアトラスからすればあまりに遠い存在だった。
「今日はなにやら尖った人間がいると聞いて来たんだ。楽しみにしてるぞ」
「は、はい。頑張ります!」
「それじゃぁ、早速行こうか」
そう言ってエドワードとアトラスはダンジョンに入っていく。
――ダンジョン。モンスターたちが跋扈(ばっこ)する異世界の空間だ。迷宮型や洞窟型に始まり、草原や神殿といった風に様々な地形のものが存在する。
このダンジョンへつながる≪裂け目≫はいろいろなところに現れる。そして放置すると外にモンスターたちがあふれ出す。モンスターたちが街に外に出てくるのを防ぐために、ダンジョンを攻略し、ボスを倒して無力化するのが冒険者たちの職務だった。
「アトラス君の担当は前衛だと聞いているから、今日は私が後衛を担当する」
「わかりました!」
「それでは早速、強化(バフ)をかけるぞ」
ダンジョン攻略では、後衛がそれぞれ得意な強化スキルを他のメンバーにかけるのがセオリーだ。
「“ディフェンス・バフ”!」
エドワードがアトラスに強化スキルを使う。
「……す、すごい」
アトラスはギルマスの放った強化スキルの強さに驚く。
(力がみなぎってくる……。これが、トップギルドのギルマスの力なのか……!!)
前にいた≪ブラック・バインド≫のメンバーのそれとは桁が違う。このスキル一つとってもエドワードがいかに強い冒険者なのかがわかった。
だが、驚いていたのはアトラスだけではなかった。
「こ、これは!? どういうことだ、私の力も強化されたぞ!?」
それまでどっしりと構えていたエドワードが、打って変わって驚きの声をあげた。
「あの、それは“倍返し”のスキルのおかげです。バフをかけられたら、かけた人に2倍にして返すんです」
アトラスが説明すると、エドワードはさらに驚愕した。
「2倍!?」
エドワードが驚くのも無理はない。
強化系のスキルはたくさんあるが、ステータスをワンランク上げるくらいが通常であった。だが、アトラスの≪倍返し≫は、ワンランクアップのバフを倍返しすれば、相手をツーランクアップさせることができる。これはとんでもなく破格なスキルだった。
「ツーランクアップさせるなんて、聞いたことないぞ」
「そ、そんなにすごいですか……?」
アトラスは、ギルマスの高評価に逆に驚いてしまう。それまで≪ブラック・バインド≫ではアトラスの「倍返し」は見向きもされてこなかったからだ。
「あたりまえだ。すべてステータスがツーランクアップしたら、凡庸な冒険者たちでも上級パーティになれてしまうではないか」
エドワードは完全に興奮した様子でそう言った。
そしてアトラスも自分のスキルが初めて他人から評価されたことに高揚感を覚えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます