断片
1.エイハブ
『……痛ぇなァ。痛ぇよォ』
――その夢は、いつもそんな囁きから始まる。
青い地獄のようなあの島で、サングラスをかけたエイハブが絵を描いている。
灰色の髪に、いつも色褪せたチューリップハットを被っていた。
『昔な、ベルリンの東にロシア女がいたんだ』
スケッチブックに絵筆を走らせるエイハブの顔は、凄まじい傷痕で歪んで見えた。
『そいつが自爆しやがったのさ。おかげでこのザマだ、どうしようもねぇ』
首を振りながら、エイハブは傍においた青い瓶に手を伸ばした。
『ひでぇ女さ。あの女、おれにキスした後でスイッチを押したんだんだぜ』
痙攣を繰り返す手で蓋をこじ開け、エイハブは一気に中身を煽った。
『手ェ動かしゃ手が痛ぇ。足ィ動かしゃ足が痛ェ。……でも一番ひでェのは、【色】だ』
右手で耳を、左手で眼を――老人は、小刻みに震える指で触れた。
『あの女が死んだ時の【色】が、おれの頭から抜けなくなっちまった』
そうして老人は、隣に座る自分を見下ろす。
黄色い歯を剥いて笑いながら、彼は自分の頭に震える手を伸ばしてきた。
『――なぁ、お前。おれの【色】は、何色だ?』
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