第5話:オオミダイ住宅街異跡

 第三都市マガツその北北西に数キロ歩いた場所にその遺跡は存在する。オオミダイ住宅街異跡そう呼ばれているこの遺跡にはある程度風化こそしているが未だ多くの原形を留めた建物が多い。

 一軒家やマンションなどと言った建物が多くモンスターも少ないためルーキーのシーカーが挑む遺跡だ。

 この異跡はある程度広範囲で奥には全く別の遺跡も広がっておりここで異物捜索するシーカーが多いのだがここは工場や商業施設の遺跡ではなくただのただの住宅街である。つまりどういう事かと言うと。


(碌な物がないな…)


 ノエルが遺跡で異物探査をしながらため息をつく。現在時刻10時半この異跡で異物捜索を始めて2時間が経過した。手ごろな物は全くと言っていい程無く大型の家電すら数は殆どない。大型の家電は運ぶのすら困難なため無視し一先ず目に入ったものを詰め込んでいく、宝石も一部あった為持って帰ることにしたがノエルにこの宝石が本物かなんてわからない為そのおさめられている箱ごとリュックに積み込んでいる。それを踏まえてもすくないのだ。


(本当に碌な物がない…殆ど家はもぬけの殻だな。少し回復薬があったぐらいだがそれも売るよりは自分で使った方がいいかもしれないな。手持ちの購入した回復薬は気休め程度にしかならないし)


 その後時間異物捜索を少しの休憩を挟みながら続け、ある一軒家に入った時だった。大きな騒音を立ててこちらにかなりの速度で突っ込んでくる物体を検知した。


「チッ…気づかれたか」


 (むしろ今まで良く気づかれなかったと言うべきか)


 ノエルはかなり慎重に、それはもう本当に慎重に戦闘が発生しないようにしていた。それでも限度はあった、割れたガラスや瓦礫の残骸を踏んだりした際の音は気を付けてもどうしても発生する。恐らくその時の音で気づかれたのだろう。


 現在居る場所は袋小路で入り口は一つモンスターもそこから恐らく来る事を予想しノエルがBBA突撃銃を腰を低くし待ち構える。逃げに徹するにしろ立地的に無理だろう。ならば待ち構えるほかない。明確にこちらに突撃してくるモンスターの反応を確認しようとした瞬間目の前が消し飛んだ。


「は!?」


 一瞬の出来事に反応は遅れたが直ぐにその場から飛びのきとにかく走り出した。消し飛んだその家の穴から走り出し家と家の間の通路を走る、その途中発射地点と思われる場所を確認すると5mはあろうかと言う大型の犬に大口径の実弾武装と思われる物が生えているモンスターが居た。


(なんでこんな所にこんな強力なモンスターが!?)


 大量の異物を背負っておりそう長い間走る事は出来ないだろうし速く移動することも不可能だ。ノエルはこのままでは直ぐに死ぬと確信した。

 一先ず足枷となっているリュックを何とかすることにし現在位置を確認し隣の家の中に異物の入ったリュックを投げ込んだ。そして現状あのモンスター相手にはライフルよりはGGH自動拳銃とエクシウムによる二丁拳銃で素早さを優先する方が勝算が高いと考えた。


(さて、流石にあの見た目ならライフルではなくともダメージが通るだろう。しかし近づけるかは不安だ)


 走り続けてはいるが限界もある、現在も精度こそ悪いが砲撃とも言えるモンスターからの攻撃は続いている、建物を遮蔽物にしモンスターに近づく。


 反動がほぼないエクシウムで牽制射撃を行いながら接近し頭部にGGH自動拳銃による攻撃を入れる作戦だ。幸いこのアサルトドッグと言うモンスターに搭載されている武装の精度は悪い、接近は容易ではないだろうが不可能ではないとノエルは考えた。


(よし。行くか)

 覚悟を決め、疲労を押し殺し、全速力で突き進む。

 砲撃をギリギリ躱すも瓦礫の破片がノエルの体を抉る。足、腹、顔複数のヵ所に傷を負い苦痛に表情を歪めながらもノエルはアサルトドッグの機動力を奪う為先に足を攻撃する。


 ノエルの銃撃を回避する為飛びのいたウエポンドッグだがレーザーのその銃撃は容易に両前足を撃ち抜き、盛大に着地に失敗したアサルトドッグの頭部にノエルが至近距離で銃撃を浴びせこの戦いは終わった。


 ノエルは直ぐに回復薬を服用してから二つの大砲部分をエクシウムで切り落とし、その切り落とした大砲を出来る限り分かりにくそうな場所に隠した。モンスターの生成した銃はある程度高額で売れると事前に調べていたからだ。


 その後体力や傷の回復具合を見ながら異物の入ったリュックを回収し周囲の確認をしてから一息ついた。


(生身であれと戦うのはもうごめんだな。あれに搭載されていた武装は金になりそうだから隠したがどうやって運ぶか…せめて強化服が無いとな。ともかく今日はもういい時間だし何より疲れたから帰るか)


 疲労困憊の精神を奮い立たせ異物の入ったリュックを背負って都市に向かって歩き始めた


 ノエルは重い足取りでシーカーオフィスにやってきた、ここはスラム街にあり自宅から一番近い場所だ。道中の警戒をしながら来なければならない為かなりリスクがあったが何とかたどり着いた。

 ここはスラムの中でも中立地帯である、何故ならここは都市の施設だからだ。

 都市の施設や職員に攻撃する等の損害を与えると都市に喧嘩を売ったも同然。都市の治安維持部隊は例えコソ泥相手でも全力を持って叩き潰しに来るのだ。よしんば撃退しようものなら更に上位の部隊が周囲ごと更地にしかねないのである。都市は三大企業の一つカラサワ重工がメインで行っている下手をすれば企業が出張ってくる可能性すらある。その為例えスラム街の屈強な者達でも都市の職員や企業関係者には何もしないのである。この知識はそこいらのスラムのガキでも知っている知識だ。


 シーカーオフィスの買取窓口でノエルが買取結果を待っている、シーカーオフィスの制服を着た男がカウンターに戻ってきた。

「買取金額は150万だ、そもそも此処は異物買取所だこういう宝石は持ってくるんじゃない」

 そう言ってその男はノエルに宝石の類を返品した。


「良いことを教えてやろう。こう言った電子機器は高く売れる、どこの企業も欲しがるからだ。しかしこういった衣服や皿なんかはゴミにしかならん。保管用ケースはある程度の値段になったくらいだな勉強になったか?しかしまぁ量はあった。以上だ、これからも頑張りたまえ」


 ノエルが頷くと男は報酬を振り込む手続きをし直ぐに次の者を呼んだ。

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