第26話 魔法ギルドで話を聞こう

 一週間が何事もなく過ぎた。クラスメイトからの接触も、ダンジョン管理局からの連絡も無い。おかげで勉強も運動も、こっそり早朝にアーリアに行ってやっている素振りも順調だ。画像の拡散も一段落した。すでにトレンドは別の話題だ。人々の移り気の早さに驚き、呆れ、感謝する。


 11月20日土曜日、僕はアーリアにキャラクターデータコンバートする。いつものように漫画を読んで待っていたメルと合流して日本へ。仕入れをして喫茶店でまたパフェを食べた。メルはこの店のパフェをコンプリートするつもりらしい。


 自宅に戻ってアーリアに転移する。レザスさんのところに行って商品を渡す。


「それで税金の件はどうなりましたか?」


「過去の分は延滞税を含めて金貨150枚ということになった。それから今後は売り上げの1割を税金として差し引かせてもらう。だから今回は金貨174枚と銀貨9枚ということになる。それでいいな?」


「分かりました。お手数を掛けてすみません」


「これが税金を払ったという証文だ。無くすなよ」


 羊皮紙を預かってリュックサックに入れる。お金も受け取ってレザス商会を後にした。


「これからは売り上げの半分をパーティ資金として僕が預かるけど、メルはそれでいい?」


「パワーレベリングの資金にするんでしょ? もうちょっとパーティ資金に入れても大丈夫だよ」


 今回は延滞税の支払いもあったけど、普通なら金貨300枚くらいは稼げる。150枚をパーティ資金にして残りを6人で分けると考えたら1人25枚だ。確かに十分過ぎる金額だと言える。


「それじゃあ売り上げがある度に金貨10枚くらいを皆に配ろうか」


「固定だとシャノンさんたちが働いてくれるかなあ?」


 確かベクルトさんが言っていたシャノンさんたちの報酬は月に金貨10枚か、5枚プラス歩合だった。


「ベクルトさんの言ってた通りに月に金貨5枚と魔石を一部分配するか。半分をパーティ資金用にして、残りを皆で等分くらいでいいかな」


「それがいいと思う。沢山倒せばそれだけ儲かるんだし、その方がやる気がでると思うな」


「とは言ってもパワーレベリングの間は後ろで見ているだけなんだけどね」


「流石にその間の魔石はひーくんの総取りでいいと思う。それで文句を言うならパーティメンバーを変えるべきだよ」


「ニーナちゃんも同じ条件で大丈夫かな?」


「十分だと思う。月に金貨5枚は12歳の女の子が稼ぐ額としては破格だよ。あ、もちろん私も同じ条件でいいからね。これまでが貰いすぎなんだよ」


「それもそうか。僕も同じ条件でお金を使うとして、まあパーティ資金については20層のドラゴン倒してパーティ解散するってなったときにまた分ければいいか」


 皆に渡す分のお金を別にして残りを冒険者ギルドに預ける。屋台で昼食を取ってニーナちゃんの家に。今日と明日は休みを取ってもらうようにメルに伝言を頼んであった。


「あ、いらっしゃい、メルシアさん、カズヤさん。いつでも出られます!」


 弟や妹の面倒を見ていたらしいニーナちゃんを連れ出して魔法ギルドへ向かう。ニーナちゃんを連れてきたのは後衛同士で相性があるだろうと思ったからだ。前衛はもうアレだからアレだけど、せめて後衛はニーナちゃんと相性の合うような人を配置したい。


「あ、カズヤさん、いらっしゃいませ。人材募集の件なんですけど、まだ1件しか応募が来ていなくて」


 金貨10枚も払って1件だけなのかとも思ったけれど、条件が結構細かかったし、時間も短かったから仕方がないのかも知れない。


「それじゃあその方について教えていただけますか?」


「お名前はロージアさん。17歳で、レベルは1。普段は針仕事をされています。後天的魔法使いで、伸びている属性はやはり水になります」


 後天的魔法使い? 聞いたことのない言葉だったが、疑問を顔には出さない。多分、アーリアの常識だからだ。


「必要であれば他の属性を積極的に伸ばすと仰っておられました」


「分かりました。その方と1度会ってみたいと思います。どこに行けばいいですか?」


 魔法ギルドの職員さんからロージアさんの職場と家の場所を聞いて、魔法ギルドを後にした。


「ねえ、メル、後天的魔法使いって言うのは?」


「ニーナちゃんみたいに生まれたときには技能を持ってないけど、後から熟練度で技能を得た魔法使いのことだね。アーリアで一番多いのはやっぱり湧水の魔術で、攻撃魔法のスキルを手に入れるパターンかな」


「ああ、だから水属性なんだ」


「そうだね。でもドラゴンに水属性ってどうなのかなあ? 火耐性は持ってるって話だけど」


「弱点属性とかはあるの?」


「ドラゴンには無いかな。だから倒すのが面倒臭いって言われるんだよね」


「水属性の魔法を口の中に撃ち込んでブレスを吐かせないとか、英雄譚で聞いたことがありますけど」


「それ私も聞いたことあるけど、本当なのかなあ?」


 2人はドラゴン退治の話をいくつか引き合いに出して話をしているが、僕はそういうのは一切知らない。軍隊が武器を持ち込んでドラゴンを倒したという話は、この場合、まったく参考にならないだろう。


 そうしているうちにロージアさんの職場である服屋に到着した。

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