第23話 女戦士たちと話をしよう

 2人の女性は仲良く並んでこちらに……、いや、体をぶつけ合っているから並んでいるように見えるだけだ。最初は軽く当たる程度だったのが、肩でぶつかるようになり、今ではもうタックルに近い。


「てめ、エリス、邪魔だろ!」


「シャノンこそ、あたしの邪魔をしてんだろ!」


 ついには髪を引っ掴み合っての揉み合いになった。なんだこれ。


「どうだ。面白いだろ。こいつらは2人ともレベル15で、10層の攻略まで終わっている。腕前も保証できるぞ」


「その時のパーティはどうしたんですか?」


「この2人が1人の男を取り合って空中分解した。こいつら仲は悪いが男の好みは一緒なんだ」


「考え得る中で最悪じゃないですか。別々のパーティに入れたほうがいいですよ」


「それがこいつら競い合わないとあんまり調子でないんだよなあ」


 僕は頭を振った。


「レベルは低くてもいいのでもっとまともな人はいないんですか?」


「まともなヤツはもうパーティ組んでるよ。あぶれてるのは問題児か、本当に初心者か、だ」


「まだ初心者のほうがマシな気がしますけど」


「アァ!? アタシより初心者の方がいいだって?」


「シャノンはともかく、あたしはまともだよ! ……で、あんたがリーダー?」


「リーダーはこっちです」


 僕はメルの背中を押す。


「え? ちょ、ひーくん?」


「他にパーティに男がいたりは?」


「今のところいないですね」


 パーティメンバーとして内定しているのは回復魔法使いのニーナちゃんだけだ。攻撃魔法使いが入る予定だが、男性になるか女性になるかはまだ分からない。


「あたしはいいや。シャノンに任せた」


「アタシだってこんなモヤシどうでもいいよ。エリスが入ってやれよ」


 なんかこの2人はどうあっても結局同じパーティになりそうな感じはする。問題はそれが僕らのパーティで良いのかどうかだ。


「僕らのパーティは20層のドラゴン退治を目標としています。お2人ともドラゴン相手は自信が無いということでいいですか?」


「アァン!? 煽るじゃねーか。ドラゴンなんざデカいトカゲだろ。あんなもん雑魚だ。雑魚!」


 シャノンさんは煽ってるって分かってるのに乗ってくるんだ。一方エリスさんは少し考え込んだ。


「実際のところドラゴン相手にするにゃ、あたしらじゃレベルが足りない。あんたらのレベルは?」


「5と7ですね」


「話にならないな。寄生相手を探してるんならギルドで依頼を出しな」


「それはそれでやる予定です。僕らだけじゃなくて、パーティメンバー全員をパワーレベリングします」


「へぇ、あんたは好みじゃないけど、金の匂いがする。実際のところどこまでパワーレベリングするつもりなんだい?」


「とりあえずはレベル40を目処に考えています」


「レベル40!?」


 シャノンさんとエリスさんが声を揃えて驚く。


「金貨数百枚って話じゃないぞ。何千枚かが飛ぶ」


「金は工面します。僕が心配しているのはパワーレベリングの間だけメンバーになっておいて、レベルが上がったら目標を達成する前に離脱するような寄生です」


「言うじゃねぇか」


「待ちなよ。金貨数千枚を用意できるってなら、そんなの20層のドラゴン退治をギルドに依頼すりゃいいじゃねぇか。金貨20枚も必要ないだろ」


 エリスさんの言う通りだ。それは僕も考えた。直接ドラゴンと向かい合うのよりよほど効率的で安全な策だ。だけど――。


「それじゃダメなんです。私が、私の力で倒さなきゃ!」


 メルが決意を瞳に宿して言った。これはメルの戦いだ。メルが認めてくれたから僕の戦いでもあるけれど、主体はあくまでメルにある。だからこのパーティのリーダーはメルだ。


「まあ、いいけど、条件次第かね」


「月に金貨50枚だ」


「じゃああたしは60枚だ」


「アホ抜かせ」


 それまで事態を静観していたベクルトさんが木剣で2人の頭を叩いた。遠慮無しに行ったのか、2人は頭を抑えて蹲る。本気で痛そうだ。


「俺の道場の評判が悪くなる。パーティメンバーじゃなくて傭兵契約だというのなら、2人とも月に金貨10枚がいいとこだ。それでダンジョンで得た資産は全部放棄な。でもそれだとお前ら全然働かんだろ。金貨5枚でダンジョンでの資産は等分分けってところだな」


「でも師匠、こいつは金持ってんスよ」


「本当にアホだな。お前らは。金持ちにすり寄って美味しい思いをしたいなら、目先の金じゃなくてパーティメンバーになって信頼を得たほうがいいに決まってんだろ」


「なるほど。流石師匠」


「あたしは最初から分かってたけどな」


 2人はくるりとこちらに向き直った。


「アタシをパーティメンバーにしろ」


「あたしをパーティメンバーにしろ」


 茶番なんだけど、どうしたらいいんだ、これ。

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