第20話 回復魔法使いと会おう

 僕もメルも小回復の魔術が使える。アーリアの町の住民は皆使える。にも関わらず回復魔法使いが重宝されるのは、回復魔法は小回復の魔術より効果が高いからだ。


 小回復の魔術では回復までにかかる時間が馬鹿にならない。戦闘中に使っていても気休め程度だ。それでも効果はあるけれど、本格的な傷を癒やそうと思えば数十分から数時間が必要になる。


 しかし回復魔法なら数秒から数十秒でその効果が得られる。負傷者が戦闘中に復帰できる。この差は大きい。また技能としての回復魔法はその効果を調整できる。具体的に言うと状態異常回復も可能なのだ。さらに習熟が進めば部位欠損なども癒やせるという。


 魔術で部位欠損を癒やそうと思えば、必要となる構成の複雑さと魔力の量が想像できない。おそらくはそれを専門として一生を捧げた人が晩年に辿り着く境地ということになるだろう。


 つまり冒険者としてより深い階層に挑むのであれば、パーティに回復魔法使いは必須、ということになる。しかしながら冒険者たちの間で回復魔法使いが奪い合いということにはならない。何故なら回復魔法使いは市場に必要とされるだけの数がいるからだ。


 先天的な回復魔法使いが多いというわけではない。どちらかと言えば珍しいだろう。檜山グループの場合、相田が偶然回復魔法の技能を先天的に得ていたから、学年の中では早々にレベルを上げられて、力を持ったという背景がある。


 では後天的に回復魔法の技能を得るにはどうすればいいか。これは実は地球でも分かっている。医療行為に参加して熟練度を稼ぐことだ。医者や看護師と言った人は後天的に回復魔法の技能を得る。まあ、習得するまでの期間がまちまちで、人によってはゲーム化から10年が経ったがまだ習得できていないという場合もあるらしい。回復魔法使いになるために医者を目指すという人は中々いないだろう。


 そういう事情で日本では回復魔法使いとして探索者になるのは先天的に回復魔法の技能を持つ人がほとんどだ。


 だがアーリアでは回復魔法使いを目指して診療所の手伝いをするというパターンが決して少なくない。大抵は5年から10年の下働きで回復魔法スキルを得るらしい。そこから冒険者になって一稼ぎというのが夢物語では無い。むしろ現在では回復魔法使いがあまり気味で、そのまま診療所に勤めるということが少ないないのだそうだ。


「じゃじゃーん、というわけでニーナちゃんです」


「ニーナです。よろしくお願いします!」


 翌朝、アーリアに転移した僕をメルが連れて行った先の診療所で、仕事の手を休めて応対してくれたのが金髪碧眼のこの少女だった。最初に思ったことは、いくらなんでも幼くない? ということだった。メルよりも年下なのは間違いなく、見た目でも水琴より幼い。


「えっと、ニーナさん、年いくつ?」


「12です。それがどうかしましたか?」


 小学生じゃん!


「メル、12歳でも冒険者になれるの?」


「ん~、ちゃんとした規則までは知らないけど、冒険者になるだけなら年齢制限はないはずだよ」


「ダンジョンへの入場は?」


「それも大丈夫」


「ニーナさんは冒険者になるのは問題ないんだね?」


「はい! 冒険者になるために診療所勤めをしているので!」


「回復魔法スキルは?」


「先月覚えました! 1年で覚えるのは筋が良いって言われました!」


「ダンジョンは危険だよ。危ないこともあるだろうし、もしかしたら死ぬかも知れない」


「でも私は家にお金を入れないといけないので! 家族がいっぱいいるんです」


「ニーナさんところは8人家族なんだって。ニーナちゃんが一番お姉さん」


「そういう事情か……」


 流石に12歳は、と思ったが断りにくくなってきたな。というか、メルが完全に了承しちゃってる感じだ。とは言え、こちらの事情もある。


「僕らが冒険者としてダンジョンに潜るのは7日に1回だけだから、そんなに稼げないと思うよ?」


「診療所での仕事も続けるつもりです」


「まあ、そういうことなら……」


 彼女を避けたいと思うのは、僕の日本における価値観だ。アーリアではこの年齢の子どもでも働ければ働くし、冒険者にもなるのだ。彼女は命を賭けるということも理解しているようだし、これ以上否定する言葉は見つからなかった。

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