第6話 メルを家族に紹介しよう

 無事お腹いっぱいになった僕らは、僕の家まで戻ってきたのだけど、帰り道の間、メルは僕の家族に会ってみたいの一点張りだ。確かに家族にメルの紹介を済ませておくメリットはある。今後もメルは僕の部屋に出入りするだろうし、いつか見つかるのは目に見えているからだ。


 車、ある。水琴の自転車、ある。どうやら僕の家族は全員が在宅しているようだ。うーん、逃げ道が無い。なんで逃げようとしてるのかも分かんないんだけど。


 まあ、こうして家の前でじっとしていてご近所さんに見られても同じことだ。僕は覚悟を決めて家の扉を開けた。


「ただいま」


 と言ったところで別に返事があるわけでも、誰かが迎えに出てくるわけでもない。我が家では両親は基本的に2階のリビングで過ごすし、水琴は自分の部屋から出てこない。


「家族に紹介するのはまた今度で良くない?」


「えー、今日がいい!」


 メルの声はよく通る。ガタガタッと水琴の部屋から音がして、扉が開いた。玄関にいる僕らを目にして、水琴が慌てて部屋から出てきた。そしてそのまま階段を駆け上がる。


「お母さーん! お兄ちゃんが外国の女の子連れ込んでるー!」


「ええー!」


 母さんが慌てた様子で階段を降りてきて、メルの姿を見て目を丸くした。


「ひーくんのお母さんですか? 初めまして! メルシアと言います。ひーくんのお友だちです!」


 メルが右手を胸に当てて挨拶をする。


「あらあら、こんな可愛い女の子を連れてきて、和也も隅に置けないわね。さあさあ、どうぞ上がっていって。お茶とお菓子を用意するわね」


「じゃあ僕の部屋にいるから」


「はいはい。変なことするんじゃ無いわよ」


「するわけないだろ」


 母さんに見送られながら僕とメルは僕の部屋に上がる。


「ひーくん、さっきのは妹さん?」


「そうだよ。水琴って名前」


「水琴ちゃんかあ。私より年下だよね?」


「どうだろう? メルの年齢を僕はまだ聞いてないよ」


「私? そういや言ってなかったっけ? 14歳だよ」


「それは家族には秘密で、15歳ってことにしておいてくれないかな。お願いします」


 メルは日本人的な目線であればなんとか高校生に見えないことも無い。僕との年齢差は2つしかないが、高校生と14歳というのは、なんとなくよろしくない感じがある。


「それで水琴ちゃんは何歳なの?」


「14だよ。メルと一緒」


「そうなんだ。意外! 私って幼く見られがちなんだよ」


「まあ、日本人は幼く見えるらしいからね」


「じゃあひーくんはいくつなの?」


「僕は16歳だよ」


「びっくり! 同い年くらいかと思ってた」


「2つしか変わらないじゃないか」


 そんな話をしながら僕は2本のショートソードとリュックサックなどの荷物を押し入れに隠す。流石に武器があると家族にダンジョンには行っていないと言い訳ができない。


「そう言えばこうしてひーくんの部屋をじっくり見るのは初めてだね」


「確かにそうだね。母さんが来るからあっちにも行けないし、どうしようか。漫画でも読んでみる?」


「漫画? なにそれ?」


「うーん、絵物語かな。絵と文字で物語を綴ったものだよ」


「へぇ、見てみたい!」


 僕はとりあえずなんとなくで今のところ全巻揃えている某海賊漫画の1巻をメルに手渡す。ダンジョンでご飯を食べるシリーズのほうが良かったかな? でも実際にはダンジョンだとモンスターは消えて無くなるからなあ。


 メルは最初こそコマ割りなどの漫画的表現に苦心したようだが、理解し出すと夢中で漫画に没頭し始めた。


「ねぇねぇ、ひーくん、これって本当のお話?」


「まさか。本当の話じゃないよ。こんなことがあったら面白いなって創作だよ」


「そうだね。面白い!」


 メルが漫画を読んでいると、部屋の扉がノックされて母さんと水琴が部屋に入ってきた。


「お邪魔するわね」


「お菓子持ってきたよ」


 メルは漫画を一旦閉じて、右手を胸に当てる。


「水琴ちゃん、初めまして。メルシアです」


「はっ、初めまして。柊水琴です」


「メルシアさんは日本語が本当にお上手なのね」


「はい! スキルのお陰です」


「なるほどねえ」


 母さんと水琴はテーブルにジュースの入ったグラスと、家にたまたまあったのであろう饅頭などを乗せた皿を置いた。


「それで2人はどういう知り合いなのかしら? 和也の学校に外国の方がいるなんて聞いたこと無いし」


「はい! 私が道に迷ってるところにひーくんが通りがかったので教えてもらいました。それから友だちです」


「ひーくんって和也のこと?」


「そうです。ヒイラギカズヤ、だからひーくん、です!」


「そう、和也、ラッキーだったわね!」


「言い方! でもまあ否定しないよ。女の子の友だちができるなんて思ってなかったしさ」


「メルシアさん、これからも和也のことをよろしくね」


「はい!」


「それじゃあんまりお邪魔になってもあれだから、失礼するわね」


「お父さんはお家にいないんですか?」


「いるけれど、どうしたの?」


「私、ひーくんのお父さんにも挨拶したいです!」


「あらまあ、それじゃあお父さんも呼んでくるわね」


 母さんは2階へとすっ飛んでいく。水琴は部屋に残ってもじもじとしているかと思うと、スマホをメルに向けて突き出した。


「メルシアさん、ライン交換してください!」

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