第1101話◆転生開花

 夜中にこっそりと部屋を抜け出してやってきたのは、森の中にあるあの湖。

 

 照明魔導具で照らしたところでなお暗い真夜中の森の中を、ソウル・オブ・クリムゾンから出てきて俺の左肩にいるチュペが纏う魔力の炎が赤く照らす。

 その不思議な炎は、メラメラと燃えているというのに決して俺や周囲のを燃やすことはなく、それが発する熱も少し肌寒さのある晩夏の夜にほどよい温もり。


 夜の森を照らす光はチュペの炎だけではない。

 チュペと並んで俺の左肩にいるカメ君が作り出した青い光を帯びた水球がフヨフヨと俺の周りを浮いて、チュペの炎と競うように周囲を照らしてくれている。


「ケッ!」


「ケッ!」


 左耳のソウル・オブ・クリムゾンに住み着いているチュペと俺の左肩が定位置のカメ君は、ご近所同士ですっかり打ち解けたようで息もピッタリの仲良しさんだ。

 左右に分かれてくれたらバランスが取りやすいのだが、でも息ピッタリでケッケッと言っているチュペとカメ君を見ると、俺がちょっと我慢すればいいかなってなる。


 うんうん、仲良きことは美しきかな。

 真逆の属性だけど仲良しさんで、チュペもカメ君も可愛い……いってえええええええっ!! あっつうううう!! つめたああああ!!

 いくら仲良しで同時に俺の髪の毛を毟るんじゃない!! 火の玉や水鉄砲をぶつけるのも禁止!!


 ホント、ベルトでカタカタ揺れているだけのナナシがお利口さんに思えてくるよ。

 思えてくるだけで、お前もそうとうヤンチャないたずらっ子だけど。

 あ、こらっ! 変な金具をぶつけるな!


 もー、俺はこれから色々確認しないといけないことがあってここまで来たのだから、俺に色々ぶつけるのはやめて大人しくしといてくれよ。

 転生開花を受け入れることにより、思い出した記憶達をじっくり確認しないといけないのだから。


 まずは――。


「ステータス・オープン」



名前:グラン

性別:男

年齢:19

職業:勇者

Lv:113

HP:1050/1050

MP:17775/17775

ST:924/924

攻撃:1250

防御:920

魔力:14000

魔力抵抗:2570

機動力:690

器用さ:20250

運:234

【ギフト/スキル】

▼器用貧乏

刀剣115/槍70/鈍器55/体術80/弓75/投擲70/盾70/身体強化99/隠密69/魔術60/変装50

▼クリエイトロード

採取76/耕作52/料理79/薬調合83/鍛冶43/細工70/木工47/裁縫46/美容37/調教85

分解76/合成66/付与72/強化45/美術34/魔道具作成51/飼育70

▼エクスプローラー

検索(MAX)/解体85/探索90/察知100/鑑定50/収納100/取引44/交渉55

▼転生開花(叡智転生)

【称号】

オールラウンダー/スライムアルケミスト/無秩序の創/大自然の解放者/明星の恩人/(リターナー)



「え?」


「カメ?」

「ケ?」


 カタッ。



 湖に到着しまずはステータス画面をひらくと、すぐに目に付いたそれに思わず声が出てしまった。

 しかしこのステータス画面は俺にしか見えないため、カメ君とチュペが俺の肩の上で首をかしげ、張り付いているナナシも不思議そうにカタカタと揺れた。


「ああ、俺の転生開花に叡智転生っていうのが追加されててさ。俺の自分の能力を可視化するスキルで見ると、そいつがリターナーの称号と同じようにカッコ付きなんだ」


 リターナーと同じでカッコ付きだけど、何か共通点でもあるのだろうか?

 このカッコって何だろうな……叡智転生とリターナーに共通するものって何だ?


「カメカメカメカメカメカメカメカメカメカメカメ……」


「ケレケレケレケレケレケレケレケレケレケレケレ……」


「……なるほど、そういうことかー! そうそう、カメ語も炎語もさっぱりわかんないな! つめたっ! あっつっ!」


 つい、戸惑いの声を発した理由を言うと、カメ君とチュペが腕を組む仕草をシンクロさせながらカメカメケレケレと、俺にむかって何かを話してくれている。

 なるほど、わからん。

 そんなに水鉄砲とか火の玉とかぶつけられても、カメ語も炎語も人間の俺にはわかんないのおおおおおお!!


 いないとわかる、アベル通訳眼のありがたみ。

 でも転生のことも、昔の俺のことも、アベルに話す勇気がないから、アベルに通訳を頼むことはできない。


 今日こっそり部屋を抜け出してきたのもそれが理由。 

 アベルだけではなく、カリュオンにも俺の秘密を話す勇気がなく、それを勘づかれることが恐いから。


 でもやっぱり気になるし、自分の変化というものに期待や希望といったワクワクだったあるのだ。

 それで深夜にこっそりとこんなとこまできたというわけだ。


 カメ君とチュペの言葉はわからないけれどギフトや称号なら悪いものではないはずだから、それらのことは時間を掛けて知っていくことにしよう。

 そもそも転生開花だって、その全てを理解しているわけではないから。

 


 というわけで、深夜にこっそり転生開花が今世の俺にどう影響したかじっくり確認するとしよう。



 まずはステータス。

 レベルは上がっているが、これは箱庭での激戦や水路でリュウノナリソコナイと戦ったやつだろう。

 身体能力系の伸びはいつものレベルアップ程度しておらず、いくら前世を思い出したとしても体はグランでしかないという証拠が数値に表れている。

 ただ魔法抵抗がいつもよりもよく伸びている気がするが……うん、これはトンチキ古代竜達の強烈な魔力に晒されたことやチュペの力を使いすぎたせいだな。

 結構しんどっかし寝込むことにもなったけれど、この結果は結構うれしい。


 そしてスキル系。こちらはごっそりと伸びまくっている。

 槍なんて最近全然使っていないのに何だこれはってくらい伸びているのは、前世の俺が槍をそれなりに使い込んだことがある経験からだろう。

 経験は知識と技術の礎であるが故に、身体能力は変わらずともスキルという技術的なものは転生開花が開花したことによごっそりと伸びたようだ。


 今ならわかる――俺の器用貧乏のギフトもきっと、転生開花の影響。

 兄達に色々力をわけてもらったリリトの生い立ちの影響もあるが、繰り返す転生の中で積み上げた経験が記憶の奥底に沈んでいっても、心はほんのわずかで覚えていたのだろう。

 だから少しやれば無意識に感覚を思い出して、少し思い出すだけで伸びる範囲はスイスイと成長していたということだったのだろう。


 それから、転生開花の後ろにカッコ付きで見える叡智転生。

 その名からして、転生を繰り返す中で蓄えてきた知識や経験のことだと俺は予想する。

 つまり転生開花の中身。

 だから転生開花の後ろで、カッコ付きの表示なのではないかと予想する。


 ギフトは持ち主の使い方により、進化をすることもあるという。

 珍しいケースだが、決してゼロではない。むしろ歴史に名を残す偉人のには、ギフトが進化した者もチラホラいる。


 俺の転生開花もそう!? 名前として開花しそうだし!?

 と思うととてもワクワクしてきて、夜中に抜け出して確認してみて正解だと思った。



 じゃ、思い出した記憶を元に実際にちょこっと体を動かしてみようか。


 うんうん、病み上がりだからちょこっとだけね、ちょこっとだけ。


 転生開花の中から引っ張り出した、リリトやヴァッサーフォーゲルが得意だったかっこいい技をちょこっと試してみようね。


 ちょこっとだけ……ちょこっとだけだから……だって俺もかっこいい技が使いたいじゃん。


 過去の俺が編み出した技だけど、今の俺が必殺技として使いたいじゃん。

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