第32話 ショッピングモール
休日、四人は地下鉄を乗り継いでビーチへやって来た。夏の日差しを浴びて砂浜は輝いていたが、あちこちに流れ着いたゴミが散乱して、酷い臭いを放っていた。海にもゴミが浮かんでおり、とても泳ぐ気にはなれなかった。実際、居合わせた人々も極力海へは入らず、砂浜で日光浴をしたり、ビーチバレーに興じたりしているだけだった。
「酷いゴミね」
リタが辺りを見回しながら言った。
「そうだな。地球の海っていうのはもっと綺麗なものかと思っていたけど、都市の近くじゃこんなものなのかな?」
アスターが溜息をつく。
「これ、皆人間が出したゴミなのよね? 何故回収しないのかしら?」
アマラは呆れた声を出した。
「そうだな。多分経済的な事情ってやつじゃないのか?」
ブランカが答える。
「地球には人間が多すぎるのさ」
アスターはそう言うと、このゴミを何とか出来ないかと考えた。サイコキネシスを使えば早く集められるが、人目に付いては不味い。
「なあ、夜中にもう一度ここへ来て、俺たちでゴミを片付けないか?」
「良いね。アスターと俺でやれば良いさ」
ブランカはそう言うと手の平を閉じたり開いたりした。
ビーチの帰り、四人はショッピングモールへ立ち寄った。夏用の服を幾つか購入するためである。四人はそれぞれ男性と女性に分かれてブティックを物色していた。リタとアマラはやはり年頃の少女らしくウキウキと洋服を手に取っては値踏みした。
「アマラはワンピースとかが良いんじゃないかしら?」
リタは淡いグリーンのワンピースをアマラの胸の前に当ててみた。瞳のグリーンに映えてバランスが良い。
「試着してみなさいよ」
リタ半ば無理やりアマラを試着室へ押しやった。アマラは言われた通り、ワンピースを着てみた。アマラが着替えている間にリタは自分用のTシャツとジーンズを選んだ。試着室のドアが開いて、アマラが恥ずかしそうに顔を出す。
「どうかしら?」
アマラの赤毛とワンピースのグリーンがコントラストを描いて、目に鮮やかだった。
「素敵よ。良く似合っているわ。それにしなさい」
「リタはどうするの?」
「私は動きやすいほうが良いから、ジーンズにTシャツで良いわ」
リタはそう言うと、白いTシャツとブルージーンズを見せた。
二人は会計を済ませると、アスター達と待ち合わせる予定の広場へ向かう。アマラは広いフロアを歩きながら、人々の心を覗いてみた。
「全く、この店ったらロクな服を売っていないわ」
「今日の夕ご飯はどうしようかしら?」
「ああ、もっと給料が上がらないかな。家を買いたいのにこのままじゃ無理だ」
「家の女房ときたら、子供をそっちのけで買い物にばかり興じやがって、面倒見る俺の身にもなれってんだ」
「あのクソッタレ上司の奴! 今に見てろよ、絶対出世してアイツを見返してやる」
様々な想念がアマラの頭に津波のように押し寄せた。アマラは余りの情報量に具合が悪くなり、フロアに座り込んだ。
「どうしたの?」
リタが心配そうに顔を覗き込む。
「うん……ちょっとね」
アマラは頭を振った。
「大丈夫ですか?」
背の高い男が話しかけてきた。
「ええ、ちょっと気分が悪くなって」
「それはいけませんね。宜しければ私がアイスクリームでも
「それは、ご親切に有難うございます……アマラ?」
リタは愛想笑いを浮かべて男に返事を返すと、アマラの顔を伺った。アマラは男の心を覗いてみた。爽やかなハンサムな顔とは裏腹に、どす黒い想念が渦巻いていた。
「い、いえ、私もう大丈夫ですから。失礼します。行くわよ、リタ」
アマラは強引にリタの腕を掴むと足早に歩きだした。
「どうしたのよ?」
「あの男は連続強姦魔よ。心を覗いてみたの」
「そんな! それじゃ誰かに知らせないと!」
「無理よ。私が異能力であの男の心を覗きました、って言う訳?」
「……それもそうね」
アマラは軽く身震いした。全く地球というのは恐ろしい所だ。アマラは男の黒い波動で自分が汚されたような気分になり、吐き気を催した。タラゴンだって自然の驚異という恐ろしさはあったが、さっきの男のような
「きっと、皆気が狂うわね」
アマラは地球人が欲望のままに想念を吐き出している様を想像して、顔をしかめた。ビーチで見たゴミと同じように、地球人の心は汚れている。もちろん、ミゲルたちの様にまともな人間だって居るけれど、今まで読んできた地球人の心の内はどんよりと曇っていた。環境が心を蝕むのか、病んだ心が病んだ環境を作り出すのか? アマラには分からなかった。ただ、タラゴンと違って、地球では心に汚濁を抱え込んだ人間が居る事。他の人間に注意しなければならない事。これだけは確かだった。
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