第26話 地球へ
「それで、ハモレさん、どうして今更迎えに来たんです?」
アリッサは少し落ち着きを取り戻して言った。ハモレは一つ咳払いをすると、話し始めた。
「皆さんがタラゴンに向けて
「そして――」
ロックが言葉を継いだ。
「調査の結果、宇宙海賊にやられたのだろう、と判断された。先ず各空域の海賊を殲滅するプロジェクトが発動された。長い年月を要したが、ようやく海賊はほぼ全滅した。そこで我々が救助にやって来たという訳だ。ポラリス号のクルーが生存している確率は低いと見なされていたが、タラゴンが調査の価値のある惑星である事には変わり無かったし、万が一の可能性にかけてやって来たのだよ」
「それで、我々は地球へ帰る事になるんですか?」
ミゲルが複雑な思いで訊いた。
「もちろんだ。二十二年経っているとはいえ、君達は今でも地球市民だ。帰還出来なかったが、惑星探査の英雄として、地球での新たな職も用意してある」
「そうですか――」
ミゲルはフーッと息を吐いた。
「この子達はどうなるんです?」
ハルカがアスター達を見て言った。
「彼らは?」
「タラゴンで産まれた俺達の子供です。タラゴンに適応するために異能力を持っています」
タイガが説明する。
「異能力――?」
ロックとハモレは顔を見合わせた。
「それは不味いわ。異能者は地球には住めないわ」
ハモレが首を振った。
「どういう事です?」
ミゲルが顔を曇らせる。
「数年前、地球で異能者の集団がクーデターを起こそうと官邸を襲う事件があったのだ。彼ら曰く、異能者こそが新たなる人類で、普通人は彼らの支配下に入るべき、との事だった。軍が出動する事態にまでなって結局鎮圧されたがね」
「それ以来新たな法律が出来たのよ。異能者は地球及び中央政府の管轄下にあるスペースコロニーには住めないとね」
「そんな! そのクーデターとこの子達は何の関係も無いじゃありませんか!」
アリッサが叫んだ。
「だが法で定められている! 大体、異能者などという者は、人類の奇形だ! 歪みだ! 決して人類を幸せにする存在では無いのだ! 普段は大人しい顔をしていても、いずれ反旗を翻す! 危険な存在だ! そんな者の存在は我々は認めな──!」
ロックは一気に
「キャプテン!」
ロックの体が小刻みに痙攣する。
「リタ、分かるか?」
アスターがリタを促した。
「ちょっと待って」
リタはロックの体を頭の先から足の爪先まで透視する。
「分かったわ。脳に腫瘍が出来ているのよ」
「その映像を俺に送れ」
アスターはそう言うと、ロックの頭に手をかざした。アスターはリタから送られてきた映像を基に、サイコキネシスで脳から腫瘍を瞬間移動させる。アスターの手に親指大の腫瘍が移動してきた。ロックの痙攣が止まり、意識を取り戻す。
「私は――。どうしたんだ?」
「脳に腫瘍があったんだよ。大丈夫、取り除いたよ」
アスターは腫瘍を見せた。
「これでも私達が危険な存在だなんて言えますか?」
リタがロックに詰め寄る。
「キャプテン――」
「う、うむ――」
ロックはしばらく黙って考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「四人とも異能者なのかね?」
「ええ、そうです」
ハルカが答えた。
「何故揃いも揃って異能者が産まれたのかね?」
「タラゴンの月の影響よ」
ずっと黙ってやり取りを聞いていたサライが口を開いた。
「月?」
「この星には二つの月があるわ。タラゴンに到着した時から、月は不思議な影響を与えてきたわ。月の影響を受けて、タラゴンで新しく産まれる子供達は異能者になるのよ」
「そんな――! それでは、タラゴンは人類の移住先にはなれないわ」
ハモレが溜め息をつく。
「何故かしら?」
「先程も言ったように、中央政府は異能者の存在を認めていません。新たに異能者を産み出す星には人類を住まわせる訳にはいかないわ」
「そう。でも、この子達はロック中佐の命を救ったのよ。特別に地球へ住まわせることは出来ないのかしら?」
ロックは眉間を指で押さえると、大きく息を吐いた。
「良いだろう。命の恩人ではあるし、特別に許可しよう。だが、地球で暮らすからには中央政府の指示に従って、異能力を発揮する事は慎んでもらう」
「政府には私が話を着けますわ」
ミゲル達は地球へ帰還する事となった。ロックの宇宙船へ移動する途中、アスターは平原を眺めた。生まれ育ったこのタラゴンともお別れだ。地球か。あのヴァーチャルルームで繰り返し見た。文明社会とはどういうものなのだろうか? アスターは期待と不安に胸を踊らせた。タラゴンでの生活は幸せなものだったが、地球にも興味があった。地球には自分達の知らない世界があるのだ。父、ミゲルの産まれた星、地球。果たして何が待ち受けているのであろうか?
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